創世物語―「この世界のはじまり」
遠い遠い昔、ここにはまだ大陸がなく、小さな島々と海しかありませんでした。大空を制するのは巨大な竜。炎を吐き、風を操り、地を揺らし、水を呑みこみ、魔法という力を持つ巨大な竜はすべてを支配していました。他の生き物は、竜の餌となるか気まぐれに殺されるかでした。
その大空の彼方、星の向こう。星海郷と呼ばれる楽園に住む天使たちは、別の生き物を生み出しました。天使たちは巨大な竜を憐れに思っていました。たった一匹で大空を統べる竜と、対話のできる頭脳を持った生き物が欲しい。そう思い、彼らは自分たちによく似た、二本の足で歩く、頭脳を持った生き物を数人生み出しました。しかし、その生き物に翼はありませんでした。翼をもつ天使と持たない生き物。天使たちはその生き物達に言いました。「貴方が下の世界で死を迎えたとき、此処に戻ってくることができます。そうしたら、我々と同じ翼を与えましょう」こうして、人間という名を付けられた生き物達は竜の支配する世界へと降りていきました。
天使たちの考えは外れてしまいました。人間が竜と対話することはありませんでした。人間達はたどり着いた島で武器を作り、文明を築き、策を講じて、魔法とは別の力を得ました。そして、竜へ立ち向かったのです。
長い戦いの末、竜は敗れました。その巨大な身体は海に落ち、それはやがて大陸となりました。飛び散った血や肉片は新たな命を生み出し、竜の魔法を使える彼らは魔族と呼ばれるようになりました。大陸では所々、巨大竜の持っていた魔力が溢れて霧となりました。竜に打ち勝った人間達は、その死骸の上で子孫を残し、国を作って、新たな世界を生み出しました。
―「アーチェスタ創世物語」より