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秋色のバス通り

作者: ケーパン

<冬>

 私は、中高一貫の私立中学校に通う中三の女の子。中学校入学と同時にこの街に引っ越してきました。学校には、自宅から5分ほどのバス停からバスに乗って通学しています。私は桜並木が両脇に連なっているこのバス通りが大好き!その並木道のバス停でバスが来るまで大好きなアガサ・クリスティーを読むことから私の一日が始まります。

 すっかり葉を落とし、春に芽吹くまで木枯らしに耐えているような姿の桜の樹もなんとなく好き。

私は中学を卒業しても、隣接する女子高に通うので、また3年間そのバスに乗って学校に通う事になります。中学生活は単調だけど友達もたくさん出来て、それなりに楽しかった。春からの高校生活はどうなるだろうなぁ......


<春>

 この春から高校一年生になった僕は、真新しい制服に袖を通し、初めてのバス通学に毎日ウキウキていた。

道路を隔てた向こう側のバス停に、僕も知っている女子高の新一年生と思しき女の子がバスを待っているのに気付いてからは特に毎日がウキウキさ!その子もこの近辺に住んでいるはずなのに僕には見覚えが無かった。きっと中学校から私立に通っていたんだろうなあ。桜は満開に咲き、さながら並木道はピンクのトンネルの様だ。

僕は、バスの待ち時間にコナン・ドイルを読む習慣がついていた。高校で出来た新しい友達に勧められたミステリー小説に今はハマっているんだ。彼女も何か読んでいるけど、まさかコナン・ドイルって事はないだろうなあ……


<夏>

 あと数日で夏休みが始まる頃、私は向かいのバス停にいつもひとりの男子高校生がいる事に気がつきました。たまたまクリスティーの本を家に忘れてしまって、ぼんやりと向かいを眺めていた時に彼の存在に気付いたのです。他県から引っ越して来た私はこの近辺の学校をほとんど知りません。彼の通っている高校はどこだろうなあ。背が高く、詰め襟の学ランがとっても似合うチョッとカッコイイ彼、最近夏らしく髪を短く刈ってそれもまた良く似合うんです。

彼もいつも何か本を読んでいます。「クリスティーだといいのになあ……」なんて思ったけど、そんな偶然はある筈ないか......

それからは毎日、本を読むだけじゃ無く彼に会える楽しみも増えました。彼は私に気づいているのかなぁ?でも、そのあとすぐに夏休みに入って、一ヶ月あまり彼に会えなくなりました……


<秋>

 夏休みが終わって、またバス通学の日々が始まった。あの子は夏休み前より大人っぽくなった様で、チョッピリまぶしく見える。僕は髪を短く刈り、部活の水泳部で毎日泳いでいたので真っ黒に日焼けした。また少し身長も伸びたようだ。

 秋になり、文化祭シーズンがやって来た。僕は友達に誘われて、あの子の学校の文化祭に行ってみた。その女子高には中学の同級生も数人通っていて、彼女達にも遊びに来いと誘われていたんだ。 

 女子高らしい華やかな催し物が多い中「ミステリー研究会」といった地味なブースを見つけた。その中にアガサ・クリスティーのコーナーが有り、彼女の生涯を年表にしたり、作品を紹介するパネルなどが壁に張られている。あまり人気が無い様で、受付の女の子も暇そうに文庫本を読みながらそこに座っていた。

 よく見ると、その子はバス停で見かけるあの子だった!僕は入場者名簿に名前を書いて彼女に渡した。

「あ、バ・バス停のひと!こ・こんにちは。随分日焼けしてますね。短い髪も似合いますし......」彼女は僕を見てつぶやいた。

「あ・ありがとう。僕のこと気付いていたの?」

「はい。いつもバス停で何読んでるんですか?」

「ドイル。コナン・ドイルさ。僕も君には気づいていたよ。君はクリスティーが好きだったのか……」

「私、ミステリーが大好きなんですけどドイルは読んだ事無いなあ……」

「いつでも貸してあげるよ!だから、僕にもクリスティーを貸してくれる?」

「は・はい!もちろん!」


 僕たちは、次の月曜日から30分早く家を出て、バスが来るまで近くの公園でお喋りデートをするようになった。

桜並木の葉は秋色に色付き、少しづつ歩道に舞い始めた。 fin



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