刑部狸
♪ぽんぽこ、ぽんぽこ!
♪ぽんぽこ、ぽん!
♪すっぽんぽん!
それに合わせて歌が飛び出す。
♪ようこそ狸御殿へ!
♪われら狸、陽気な仲間。
♪毎日楽しく暮らすのが一番さ!
♪今夜は狸姫の目出度いご婚礼。
♪花も恥らう姫さまは芳紀十と八。
お花は手を叩いて喜んでいる。
狸たちの歌の途中、宴会場の奥から別の一団が現れた。
裃をつけた狸たちに先導されて現れたのは、歌にあった当の狸姫である。
出された料理を前に途方にくれていた翔一は、見るともなしに現れた狸姫を見ていた。
豪華な花嫁衣裳を身につけた狸姫はゆっくりと正座した。顔は狸そのものである。目はぱっちりとしているが、それが女らしい顔なのかどうなのか、判るはずもない。
ぱちぱちぱち……と狸たちは姫に対して一斉に拍手して歓迎している。
と、姫が着座すると、反対の入口が開いて、更なる一団が現れた。巨大な狸が、悠然と姿を見せる。
のっしりと足を踏み入れた巨大狸は、ぎょろりと大きな目玉を動かして宴会場を見わたした。
「刑部狸さまじゃ!」
畏敬の声が上がる。刑部狸と呼ばれたその狸は「うむ」と重々しく頷いた。
「みなの者、楽しくやっておるかな?」
刑部狸の声は宴会場に轟いた。
姫の隣に席についた刑部狸の前に、ちょこちょこと小さな狸の一団が整列した。これは豆狸の一団である。豆狸たちは手に乗るほどの大きさしかない。
豆狸たちは、ちょこんと整列すると、全員が刑部狸の前でぺこりとお辞儀をして、唄いだした。
♪我らの刑部狸さま。
♪あなたこそ我らの太陽、我ら狸たちのお父さま!
♪あなたがいなければ狸には希望も無く、あなたがいなければ明日も無い!
豆狸たちは甲高い声で唄って踊っている。
それを見ていた芝右衛門は首を捻った。