祝宴
夜になり、祝宴が開始された。
狸御殿の宴会場に狸たちが勢揃いし、次々と料理が運ばれる。
時太郎たち三人は、芝右衛門と並んで一番の上席に案内された。上機嫌の芝右衛門は、会場をいそいそと移動して、遺漏の有無の点検に余念がない。
「さあさあ、まずは料理を召し上がって頂こう! この日のために料理人が腕によりを掛けて用意させたものばかりじゃぞ」
時太郎とお花は目の前に運ばれた料理に「わあ!」と歓声を上げて目を輝かせた。
「美味しそう! ねっ、翔一も遠慮しないで食べなさいよ!」
勧められた翔一は、げっそりとした顔をお花に向けた。
「はあ……」
力ない返事をする。
手には箸を持っているが、箸先は虚しく料理の上をさ迷っているだけだ。
出された料理と言うのが……。
虫だった!
芋虫、ザザ虫、百足、沙蚕、蝉、蜻蛉、飛蝗に蝗……。様々な虫が煮付けになったり、油で揚げられたり、砂糖漬けになったりして、ずらりと並んでいる。主菜は赤蝮の特大姿焼と噛付亀の活け作りだ。
時太郎とお花は、それらを夢中になって口に入れている。旨い旨いと何皿もお替りをして、舌鼓を打っていた。
ぱんぱんぱんと芝右衛門は手を叩いた。
「余興じゃ! さあ、腹太鼓自慢の者ども、お客人に狸の腹太鼓を聞かせておくれ!」
はあーっ、と数匹の狸が勢ぞろいし、腹太鼓を叩き出した。