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計略

「凄え……」


 戦いを見守っていた時太郎は、思わず賛嘆の声を上げていた。

 どちらも一歩も引かず、逃げず、ひたすら延々と殴り合いを続けている。


「どうなっちゃうの?」

 お花が心細そうな声を上げる。五郎狸も首を振っている。


「芝右衛門殿のお考えは判りませぬ。何を狙っているのか……」


 やがて頃合良しと見たのか、芝右衛門は殴りあう二匹の間に割って入り叫んだ。


「一本終了! 勝負は引き分けといたす。あと二本の勝負が残って御座る。まずは、休憩を取られよ」


 肩を泳がせ、喘いでいた刑部狸とおみつ御前は芝右衛門の言葉に救われた様に溜息をつき、のろのろとお互いの狸たちの群れに帰っていった。

 どたり、と尻を地面につき座り込む。わっとばかりに配下の狸が群がり、お互いの首領の肩を揉むやら、団扇で扇ぐやら大騒ぎである。


 と、芝右衛門がちょこちょこと五郎狸に近づき、何か飲み物の容器を手渡し、その耳に、こそこそと囁いた。

 五郎狸は目を瞠った。ぽかんと口を開け、芝右衛門を見上げる。芝右衛門は悪戯っぽい顔つきになって頷いた。

 五郎狸は激しく頷き、容器を抱えおみつ御前に近づいた。

 その容器の蓋を取り、おみつ御前に飲ませている。時太郎が刑部狸を見ると、芝右衛門もまた、同じ容器の蓋を開け、中身を刑部狸に飲ませている。

 お互い喉が乾いていたのか、ごくごくと中身を飲み干していた。


 芝右衛門は再び双方の中間に立ち、宣言した。


「第二回目の勝負を始めまする……お互い、思い残しの無いよう、健闘を祈りまする」

 芝右衛門がさっと手を上げると、唸り声を発し、刑部狸とおみつ御前は立ち上がった。


 相当に疲れているのか、ふらふらと上体が泳いでいる。

 よろよろと近づくと、がっきとばかりにお互いの身体を抱きしめるように組み合った。


「まだやるの? こんなの、止めればいいのに……」

「まあ、見ていて御座れ」

 お花の呟きに、何時の間に戻ったのか、五郎狸が目じりに皺を寄せ、含み笑いを浮かべている。時太郎は首をかしげた。

「どういうこと?」

「芝右衛門殿の計略で御座るよ」


 五郎狸は楽しそうに答える。

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