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一騎討ち

 おみつ御前はいきなり爆笑した。

「ははははは……! 一騎討ちだって? 面白いねえ……。つまり、あたしとそこの刑部狸で雌雄を決するという訳だ。文字通りね」


 刑部狸は微かに眉を顰め、芝右衛門を見つめた。芝右衛門はわざと明後日あさっての方向を見て、刑部狸と目を合わせない。その様子に何か考えがあるのらしいと見当をつけたのか、刑部狸は頷いた。


「いいだろう、お前とおれとで決闘だ!」


 応諾の言葉を聞くや、おみつ御前は羽織っていた内掛けを脱ぎ捨てる。

 刑部狸は腕をぶるんぶるんと回転させ、首の関節をごきごきと鳴らす。

 その真ん中に芝右衛門が立ち、宣告した。


「勝負は三本! どちらかが、参ったと言うまで! それでは始めよ!」


 その声を待たず、おみつ御前は「うおおおっ!」と雄叫びを上げて刑部狸に突進した。


 がつーん、と音を立て、おみつ御前と刑部狸の頭蓋骨が激突する。

 くらくらっと双方とも一瞬、気が遠くなったのか、足下が頼りなくよろめいた。

 が、同時に我に帰り、さっと両手を前へ突き出し組み合った。


「ぐぐぐぐ──っ!」


 お互い歯を食い縛り、全身の力を込め、相手を押しやる。しかし双方の力は互角のようで、踏ん張った足下の地面が深く抉れ、土が盛り上がる。

 ぐわっ、と口を開き、おみつ御前は刑部狸の肩に食いついた。


「ぐあ──っ!」


 刑部狸は怒りの咆哮を上げた。

 足を飛ばし、おみつ御前の踵を払う。態勢が崩れていたおみつ御前は踏鞴を踏んで堪えた。だが、刑部狸に食いついていた口は、堪らず離してしまった。


 ふーっ、ふーっと息を荒げ、双方は睨み合った。


「むん!」とばかりに刑部狸が拳を飛ばし、おみつ御前の頬げたを張り飛ばす。


 ごきん! と音を立て、おみつ御前は横を向く。おみつ御前は殴られた頬を押さえ、歯の噛み合わせを確かめるように顎を動かすとにやっと笑い、今度は刑部狸の頬げたを張り返す。

 刑部狸の頬が「ぼくっ」と低い響きを立てた。

 にやりと刑部狸も笑い返す。


 殴り合いが始まった。

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