表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/50

御前の怒り

 毒々しいほどの茜色の夕焼けが辺りを染め上げている。背後の光を受けたおみつ御前の輪郭が金色に彩られていた。


 おみつ御前の後ろからは、数十匹の狸が、手に手に竹槍や棍棒を持ち、じりっ、じりっと迫ってきている。ゆっくりと顔を振り、わざとらしい上機嫌を装って、おみつ御前は語りかけた。


「なあるほどねえ……、どうも近ごろ五郎狸の様子がおかしいと思っていたが、まさか刑部狸らと通じていたとは、夢にも思っていなかった。南蛮人との打ち合わせが済むと、あたしが見張りを命じていた狸がふらふら帰ってくるじゃないか。訳を聞いて、あたしゃははん、と思った訳なのさ」


「ご、御前さま、これには訳が……」

「そうだろうともさ!」

 慌てて弁解しようとする五郎狸に、おみつ御前はぴしりと言い返した。

狸穴まみあなを裏切って、いったいどんな見返りを刑部狸は約束したのかね? お前は汚い、裏切り者だ!」


 ぐっと指さし、怒鳴る。

 おみつ御前はさらに千代吉を睨んだ。

「千代吉! なんでお前は、こんな奴とつるんでいるんだい? そんなに狸御殿のお姫さまが恋しいのかえ? あんた知っているのかい、あの姫さまは、とんでもない淫乱狸だってことを? 刑部狸の部下を、今まで何匹も咥え込んだって噂は聞いていないのかえ?」


 千代吉は俯いてしまった。

 時太郎は前へ出て口を開いた。

「おい、あんた千代吉の母親だろ? 自分の息子に、その言い方はないだろう!」


 すう──、とおみつ御前は息を吸い込む。



「おだまりっ!」



 おみつ御前の大音声に、土蔵の屋根の瓦が二、三枚からからと音を立てて落ちていった。

 きいーん、と時太郎とお花は耳鳴りに一瞬、頭の中がぼうっ、となっていた。まわりの狸たちは、おみつ御前のこの大声を予感していたのか、早手回しに両手で耳を押さえて無事であるようだ。


「やっぱり、お前たちは狸御殿からやってきた諜者スパイなんだ! 諜者は見つけ次第、死刑と狸穴の掟だよっ! おいっ、こいつらを殺しておしまいっ!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ