急転
五郎狸の長広舌に、皆ふむふむと聞き入っている。
「それで密かに、わしは狸御殿と連絡を取り合うことにした。連絡にはうってつけの連中がおった」
ぽんぽんと五郎狸は手を叩く。
「それが、わたくし、という訳で……」
頭上から声が降ってきて、時太郎とお花は積み重なっている荷物を見上げ、ぽかんと口を開けた。
荷物の上に立っていたのは豆狸だった。豆狸は深々とお辞儀した。
「姿を消し、申し訳も御座いませぬ。しかし、どうしても五郎狸殿と連絡を取り合う必要があったので、やむなくあの場を逃げ出した、という訳なのです」
五郎狸が後を引き取る。
「これ、この通り、豆狸はこのように小そう御座いましょう? 今まで幾度となく、豆狸どもに協力願ったという訳で御座る」
時太郎は腕を組み、叫んだ。
「なんだ、それじゃおれがこの狸穴にやってきたのも、そいつらの差し金か?」
五郎狸は「まあまあ」と両手を挙げた。
「すまん! なにしろ、事は秘密を要するのでな。しかし若様とわしの思いが同じということが判って、喜ばしいかぎりじゃ。南蛮人の震天雷は、ことごとく廃棄せねばならぬ。そのこと、判ってくれるか?」
「そりゃ、まあ……」
時太郎は面白くはなかったが、不承不承、頷くことにした。これで千代吉が狸御殿に同行してくれるなら、まあいいかと思ったのである。
「そうかい、そういう絡繰だったのかい!」
出し抜けの大声に一同は飛び上がった。
土蔵の入口に、夕日を背に受け、おみつ御前が立ちはだかっていたのである。