説明
「出てきなさい。わしは、そちらの敵ではないよ」
五郎狸の声は穏やかだった。時太郎はその声に嘘は無いと思った。
「おい、出て行くぜ」
お花と千代吉に声を掛け、荷物の隙間から姿を表す。五郎狸は時太郎の姿には驚かなかった。
ところが、背後から千代吉の姿を認めると、さすがに目を見開いた。
「若様……!」
「五郎狸さん。これは、どういうことですか?」
千代吉の言葉に五郎狸は微かに首を振った。
「あの震天雷の威力を目の当たりになさったで御座いましょう? あのようなもの、狸穴の狸が持つと、碌なことになりませぬ。あれは、あまりに強力で御座います。いや、狸ばかりでなく、どんな勢力が持っても危険であろうと思います」
千代吉は頷いた。
「わたくしも、そう思います。母上はあの南蛮人に誑かされているのです!」
千代吉の言葉に、五郎狸はわが意を得たりという表情になった。
「さすが、若様! じつは、時太郎殿とお花殿のお二人が捕えられた時、わたくしがお救い申し上げようと思っていたのですが、先を越され、いったい誰がと推察を巡らせていたのですが、若様だったのですね!」
「ねえ! さっきからさっぱり判らないわ! ちゃんと説明してよ!」
お花は苛立っているのか、軽く足を踏み鳴らす。五郎狸はちょっと笑って頷いた。
「左様か……。ちと説明不足であったようで御座るな。
もともとは若様と狸御殿の姫さまとの縁組にわしが駆け回っていたころ、狸御殿の家老、芝右衛門殿と談判するようになって、お互い理解を深めたのじゃ。その結果、狸穴と狸御殿は協力し合うことが肝要という結論になった。
しかし、あの南蛮人が御前に近づくようになって、状況が変わった! なんと、あの南蛮人め、御前に人間界への侵攻という考えを吹き込みおった!
そのため、御前は狸御殿との縁組を解消し、あまつさえ戦いを仕掛けようという……。これは狸全体にとって未曾有の危機と、わしは思ったのじゃよ」