震天雷
出口近くの見張りの狸は、二人が近づくとちょっと身じろぎをした。
出口近くには幾つもの箱が積み重なられている。南蛮人はその一つの箱の蓋を開けると、中から一本の棒を取り出した。
棒には細い紐が伸びていた。その棒をおみつ御前に見せて説明をはじめる。
「これは、極めて危険な代物です。しかし、戦場では無敵の武器となりましょう。使いかたは簡単です」
懐から燐寸を取り出し、近くの柱に擦りつけ、ぱちっと火を点ける。
その火を棒から伸びている紐に近づけると、紐はぱちぱちと音を立て燃え出した。
「素破、乱破などは目眩ましに火薬を使うそうですが、この威力はそれとは桁違いです。さあ、ご覧下さい!」
紐は半分ほどに短くなっている。
南蛮人は勢いをつけ、棒をやっとばかりに放り投げた。
棒はくるくると回りながら山の斜面を転がり落ちていく。
やがて、かなりの距離のところで止まった。ぱちぱちと紐からは、まだ煙が出ている。
その紐がすっかり燃え尽きた。
どかーん!
大音量が響き渡り、土塊があたりに飛び散った。もくもくという煙りが立ち込め、つんとする金臭い匂いが漂う。
すっかり煙が晴れると、その場の地面は大きく抉れ、丸い大穴が開いている。
見張りの狸はすっかり腰を抜かし、地面にへたりこんでいる。
おみつ御前は呆気に取られ、目をぽかんと見開いた。五郎狸は両耳を押さえ、目をしっかりと閉じて縮こまっていた。
「いかがかな? これを震天雷と名付けました。文字通り、天を震わす雷と申せましょう……」
その時ばかりは南蛮人は得意そうな表情を見せた。
「あ、ああ……驚いた。すごい威力だね」
やっとのことで、おみつ御前は声を絞り出した。しかし次の瞬間、狡猾そうな表情が浮かぶ。
「そうだね……これさえあれば、狸御殿の連中はおろか、人間たちだって、ひとたまりもないだろうよ! あたしゃ、これを使って、総ての国を征服できるんだ!」
おみつ御前は、くるりと南蛮人に向き直った。
「それで、これをと引き換えに、あんたは何を求めるつもりなんだい?」




