予感
土蔵の中に居るのは、おみつ御前だけではなかった。おみつ御前の目の前に、ひょろ長い異相の人間が立っていた。
時太郎は、それが南蛮人ではないか、と思った。
襞飾りのある襟、身体にぴったりとした筒袖のような上着。足下は襦袢のような生地で、爪先の反り返った靴を履いていた。
やや前屈みの姿勢で、両目が明かりに反射して、猫の目のように光っている。
南蛮人の隣には五郎狸が控えていた。五郎狸は俯き加減に、じっと押し黙っている。
時太郎は南蛮人に引き付けられていた。その姿から、とてつもない違和感が立ち昇っている。
こいつは、敵だ!
時太郎は全身で強く確信していた。なぜだか判らないが、その確信だけは時太郎の胸にずっしりと存在している。
おみつ御前が何か話している。
「それで、準備はどうなんだい? あたしは狸御殿の刑部狸の臆病さには腹が立っているんだよ。人間への攻撃の前に、まず狸御殿の連中を叩き潰してやりたいんだ!」
南蛮人がひそひそとした声で応える。
「準備はすでに、できております。例のものは、すぐにでも使えましょう。ただし、扱いには厳重な注意が必要です。これを使えば、あなた様は無敵の力を得ることになる……」
言葉を切ると、南蛮人はひっそりとした笑いを浮かべる。
おみつ御前は疑り深そうに鼻を鳴らした。
「あんたはそう言うが、あたしはまだその威力を目にしていないんだよ。本当にあんたの言う通りかどうか、まだ迷っている。で、今日こそ、そいつの威力ってやつを見せてくれるんだね?」
南蛮人は頷いた。
「勿論で御座いますとも……。それでは、こちらへ」
と、南蛮人は出口へ歩いていく。おみつ御前も後に続いた。