狸御殿
どん、と翔一は時太郎の背中にぶつかった。
「あ、申し訳ありません! つい、うっかり……」
慌てて顔を挙げ詫びを入れる翔一を、時太郎はまるっきり無視している。
その目が鋭く辺りを見回していた。
なにを気にしているのだろうと、翔一も立ち止まり、視線を周囲に動かす。
いつの間にか両側が切り立った崖になっている。その真ん中を、細く道ができていた。
こんなところで襲撃されたら防ぎようがない。それで時太郎は油断なく辺り一帯に気を配っているのだろう。
道は先のほうで急角度に右に折れ曲がり、通路のようになっている。当然、先は見えない。
「どうしますか?」
翔一は恐る恐る時太郎に話しかけた。
時太郎は「うん」と頷いた。
「行くしかないだろうな。なんだか、いやな予感がするけど」
お花も賛同する。
「そうね、あたしもそう思う」
時太郎とお花は歩き出した。その後から翔一も従いていく。
歩いていくうち、前方から妙な音が聞こえてくる。
なんだろう、あの音は?
ひょい、と顔を上げると時太郎と目が合った。
「なんでしょう、前方から聞こえてくる音は……?」
「太鼓を叩いているみたいね」
お花が感想を口にした。
翔一はぽん、と手を打った。
「そうです! これは太鼓の音でございます!」
ぽんぽこぽん……。太鼓の音は、そんな響きをしていた。
角を曲がった三人は「あっ」と立ち止まった。崖の両側を塞ぐように、城が建っていた。
城の正門には二匹の狸が手に槍を持ち、辺りに鋭い視線を配っている。
「止まれ!」
三人の姿を認めた狸はさっと手にした槍を構えた。
「ここは、狸御殿である! 怪しい奴らめ!」
驚いた三人は後戻りしようと、今やって来たばかりの道を振り返った。と、そこにも数匹の狸たちが槍や、弓矢、刀を構えて立ち塞がっている。
ぐっ、と手にした武器を三人に突きつける。
「動くな!」
狸たちは猛然と三人を取り囲んだ。