小屋
波音が聞こえている。
海岸近くの崖沿いに粗末な小屋が並んでいて、その一つに時太郎とお花は全身を縄でぐるぐる巻きにされ、押し込められた。
小屋の中には漁の道具が乱雑に置かれている。おそらく狸穴狸は海で漁をして生活しているのだろう。小屋に窓はないが、粗雑な造りのせいか、羽目板から日差しが内部にこぼれ、それほどの暗さではない。
もぞもぞと身動きをして、お花は上半身を起こした。背中側に両手が縛られ、両足の先も同様なので、起き上がるだけで一苦労だ。
時太郎は背中を見せて横たわっている。
お花は恨めしげに時太郎を見た。
「どうすんのよ、時太郎。あんたのせいよ」
「うるせえなあ……」
背中を見せたまま時太郎は不機嫌に答えた。
どんどんどん、と羽目板が叩かれた。
「お前たち、黙っていろ!」
小屋の外に見張りが立っているのだ。
ずりずりと腰を動かしてお花は時太郎に近づいた。聞こえないように【水話】を使う。時太郎は【水話】を発することはできないが、聞き取ることはできる。
──ねえ、これからどうするの、って聞いているのよ! 逃げ出すつもり、あんの?
くるりと時太郎はお花に顔を向けた。
「こんな状態で、どうやって逃げ出すってんだ?」
見張りを気にして囁き声である。
お花は背中を見せた。背中側に縛られた両手の指をひらひらさせる。
──指は動くから、縄目をほどけば、なんとかなるんじゃない? ともかく、あたし、こんなところに
閉じ込められているのは、まっぴら御免だわ。
「よし……」
時太郎も身動きした。