立ち回り
ぐっと時太郎は、突き出された槍の穂先を握りしめた。はっ、と構えた狸が驚愕の表情になる。
そのまま槍を時太郎は、ぐいっ、と手元に引き寄せた。
おっとと、と狸は蹈鞴を踏みかけて、辛うじて足を踏ん張る。時太郎が逆に押し返すと
「わっ!」と叫んで仰け反ってしまう。時太郎は力任せに竹槍を奪い取った。
「野郎……」
狸たちは怒りの形相になって、一斉に突進してきた。
ぶーん、と音を立て時太郎は奪い取った竹槍を振り回す。びしっ、びしっと狸たちの槍が、時太郎が振り回した竹槍の先で叩き落される。
「何をしているんだい! そんな小僧一人に、手間取りやがって……」
おみつ御前が怒鳴る。
時太郎はお花を振り返り、叫んだ。
「お花、従いてこいっ!」
その声に、お花は弾かれたように走り出した。
たたた……、と時太郎は、おみつ御前に向かって走り出す。槍を前方に突き出している。ただし穂先は後方に前後逆に持っている。
とん、と時太郎は竹槍を地面に突き立てた。
ぐっ、と力を込めると、竹槍は弓のように撓る。その反動で、時太郎の身体は宙に持ち上がった。
おみつ御前はぽかんと目を見開いた。その顔に、時太郎の両足の踵がめり込む。
ぐあっ、とおみつ御前の悲鳴が上がる。
「御前!」と五郎狸の叫び声。