衝突
真っ青な海原から、白い波が砂浜へと打ち寄せる。砂浜の砂はほとんど白といってもいいほどの色で、なにか特別なものが含まれているのか、時折きらきらと光を反射している。
「狸穴、っていうから、どっかの洞窟に住んでいるものとばかり思ってたわ!」
お花が感想を言うと、豆狸は髭をぴくぴくさせた。なんだか「してやったり!」という表情である。
と、豆狸は鉄路の向こうを見やって緊張した表情になった。
「時太郎さん、終点が近づいてきました。制動装置を!」
「制動装置って、なんだい?」
「簡便手押式台車を停めるんです! ほら、そこの梶棒を引いてっ!」
豆狸の声は悲鳴に近くなっていた。
終点が見えてくる。鉄路の先に車止めがある。出発したときと同じような小屋があり、そこから数匹の狸が飛び出して来た。
明らかに慌てている。手を振り回し、なにか叫んでいる。
「停めろっ! ぶつかるっ!」
狸たちの切迫した口調に、時太郎もようやく事の重大さを認識した。
梶棒に飛びつく。
ぐいっ、とばかりに力いっぱい引き寄せる。
ぎぎぎぎい~っ!
軋むような音を立て、制動装置が利きはじめる。車輪から火花が散り、なにか油が燃えるような、厭な匂いが漂った。
お花も時太郎と一緒に棒を引き寄せた。
二人と豆狸は、ぐんぐん近づいてくる車止めを見つめていた。
着実に近づいてくる。速度は、あまり下がっていない。
このまま、ぶつかると……。
時太郎は目をいっぱいに見開いていたが、お花は恐怖のあまり目を閉じている。
そして、ついに……!
がくんっ!
簡便手押式台車は車止めに衝突してしまった! 衝撃で、台車は横倒しになり、時太郎とお花は投げ出される。
ぐるぐると空が回り、時太郎は後頭部を何かに打ち付けていた。
ぱっ、と目の前に星が飛び、あとは何も判らなくなった……。