トロッコ
「これは……なんだい?」
時太郎の質問に狸は答えた。
「簡便手押式台車だ! そいつに乗れば、真っ直ぐ狸穴に着ける。行きは下り坂だから、楽だぜ。ただし、帰りは相当に辛いがね」
恐る恐る二人は簡便手押式台車の台に乗った。目の前の把手を掴む。
時太郎は、ぐいっ、と把手を押し下げた。
がくん、と微かな衝撃があり、簡便手押式台車は、ごとごとと音を立て動き出した。
「あはっ!」
時太郎は思わず声を上げていた。
面白そうだ!
ぐいっ、ぐいっと時太郎とお花は把手を動かした。時太郎が力を込めるたび、車はぐんぐんと速度を上げる。
「ちょっと……時太郎、面白がるのはいいけど、押さえてよ! 危ないわ!」
お花の言葉にも、時太郎は夢中になって把手を動かしている。動かすたび、簡便手押式台車は速度を上げた。
びゅうびゅうと吹き付ける風が物凄い。
鉄路は森の中を進んでいた。
やがて坂道は平坦なところに代わり、辺りは広々とした草原になる。
遙か彼方に、きらっ、きらっとした輝きが見えてきた。
「なんだろう」
時太郎は伸び上がって、そちらを見透かす。
お花が鼻をくんくんとさせた。
「潮の匂いみたい……」
「潮だって?」
時太郎はお花の肩に止まっている豆狸を見つめた。豆狸は頷いた。
「はい、海が近いのです。狸穴は海の側にあるのです」
「海……!」
時太郎は声を弾ませた。
海なんて初めて見る!
広がる海原を見て、時太郎は叫んだ。
「広い……! なんて広いんだ!」
簡便手押式台車は海岸べりを真っ直ぐ進んでいた。