悪食
腹がすいた……。
苦楽魔にいたころは、朝、昼、晩の三食が習慣で、白い米を腹いっぱい食っていたのに、旅が始まってからは、一握りの木の実、水虎魚や電気鯰が精一杯である。
さらには、二人が時折、芋虫や蜥蜴、蚯蚓の類を捕まえて、さも美味そうに食うのには耐えられない。
最初、勧められたが、悪食は断固として辞退した。虫を食うなど、信じられない!
三人は森の中を歩いていた。
立ち並ぶ木々は鬱蒼とした照葉樹林で、獣道のような細い踏み分け道を辿っていく。苦楽魔の山を突っ切れば、やがて耶馬師炉の国に入る見当だ。京の都は耶馬師炉国の領域にあるのだ。
京の都は北に苦楽魔、東に威狛、南を鬼州の山に囲まれている。西側は彌環湖に面していた。
苦楽魔と威狛は連なっており、今いる森を抜ければ、京の都はすぐ目の前のはずだ──が、翔一には、今少し自信がない。なにしろ苦楽魔を出るのは初めての体験だ。
空を飛ぶことができたらなあ……。
翔一は大きな眼鏡の奥から空を見上げた。
大天狗さまから葉団扇を頂いたが、いまだに空を飛ぶことすら、ほんの少しでも浮くことすらできない。
くう……腹の虫が鳴いて、翔一は思わず手で腹を撫でた。空腹で目が回りそうだ!
きょときょとと落ち着きなく、翔一は辺りの森を眺めた。
森は食べ物の宝庫……時太郎とお花の言葉である。事実、二人は食事時になると森に分け入り、様々な木の実を採ってくる。二人の目にはそれらの食糧がすぐに判別できるのだろうが、翔一には無理だ。
あれは食えるのだろうか?
目に入る木の実を見て翔一は口の中に唾を湧かせた。しかし、うっかり口に入れて腹を壊したらと思うと、なかなか、その気になれない。
そんなことばかり考えていたので、翔一はすっかり周囲に気を配ることを怠っていた。