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箸
翔一の箸が止まらない。
食べても食べても、底なしの食欲が湧いてくるようで、翔一は目の前の料理を口に運んでいた。
箸を動かしているのは翔一が、たった一人だけである。狸姫と、その他の狸たちは、そんな翔一をじっと見つめている。
ふと翔一は食べるのをやめ、顔を上げた。見つめている狸姫の視線が気になってどうにも居心地が悪い。
ふっと翔一は照れ笑いを浮かべた。
「どうしたのです? 姫さまは、あまり召し上がらないようですが?」
くっくっと狸姫は口に手をやり、笑いをこらえる。
「まあ、まるっきり先ほどの、わたくしの台詞ではありませぬか! それにしても翔一殿、よくお食べになられましたね」
翔一は恥ずかしくなった。
「はあ、虫料理が、このように旨いものだとは知りませんでした。すっかり、ご馳走になって……」
と、翔一の手から、ぽとりと箸が落ちた。
狸姫は翔一の顔を窺うような目つきになった。
「どうしたのですか、翔一殿。ご気分はいかがです?」
「い、いえ……ちょっとばかり……」