味覚
悲鳴を上げる間もあればこそ、翔一は一斉に飛び掛ってきた狸たちに無理やり手足を押さえ込まれてしまった。
誰かが鼻の穴を押さえ、苦しさに翔一は、ぱかっと口を開いた。
すかさず、即座に口の中に狸姫が箸で掴んだ蝗の佃煮が押し込まれる。
必死に吐き出そうとするが、別の手が翔一の口を閉じさせ、むしゃむしゃと強制的に咀嚼させる。
ごくん!
とうとう翔一は、蝗の佃煮を飲み込んでしまった。
眼鏡の奥の翔一の目が見開かれた。
ぺろり、と舌先で嘴の周りに残った佃煮の汁を舐め取る。
「これは……」
その顔を覗きこんだ狸姫が顔を綻ばせた。翔一の手足を押さえ込んだ狸たちの手が緩む。
翔一は、起き上がった。
目の前に並べられている料理の皿を見つめている。
手が箸を取り、芋虫の油炒めを摘む。口の中に放り込み、咀嚼する。柔らかな芋虫の肉が、口の中で踊る。
「美味い……」
ぽつり、と翔一は呟いた。
姫は大きく頷いた。
「お口に合いましたか! よろしう御座いました!」
「うん」と頷いた翔一は、今度は自分から目の前の料理に箸を伸ばした。
次から次へと口に放り込む。
こんな美味な料理、ついぞ食べた記憶がなかったと思っていた。




