空腹
ぐう~っ、と腹の虫が鳴いている。
空腹で目が回りそうだ。
目の前に出されているのは、相も変わらず翔一の目には下手物料理の数々である。
宴会場では翔一と狸姫が向かい合わせに朝食の席についていた。
姫は百足や、蚯蚓、芋虫、蜥蜴、蛇などの見るも気色の悪い下手物料理を盛んにぱくつき、咀嚼している。どうやら狸というのは怖ろしいほどの健啖家であるようだ。
姫は顔を上げ、翔一の顔を見つめ、鼻先に皺を寄せた。
「どうしたのです、翔一さま。あまり食が進まないようでございますね」
「はあ……」
翔一は力なく返事をした。
姫は立ち上がり、翔一の横に座った。
「そのように食が細いと、身体に毒でございますよ! さ、わたくしが食べさせてあげましょう。あーん、して御覧なさい」
翔一はぶるぶるっ、と首を振って後じさりした。鼻先に狸姫が箸で掴んだ蝗の佃煮が、ぶらんと揺れている。
「け……結構でございます。わたくし、食欲がないのです!」
「翔一さま!」
姫はぐっと目に力をいれ、翔一を睨んだ。
「あなたは、わたくしの婿になったのです! 婿殿は、嫁の言うことを聞くものです! よろしい、それなら、わたくしにも考えがあります。みなの者!」
姫が叫ぶと、どやどやと足音を立て、狸たちが入ってくる。姫は狸たちに命令した。
「者供、翔一さまに何が何でも食事をさせるのです! さあ、翔一さまの手足を押さえなさい!」