食事
差し出された木の実や、水虎魚などの食料を見て、翔一は世にも情けなさそうな声を発した。
「あのう……たった、これだけでございますか?」
お花は頷き、眉を上げた。
「そうよ、充分じゃないの?」
「はあ……」
翔一は、溜息をつき、受け取った。生の水虎魚を見て肩を竦めると、懐から凸玻璃玉を取り出す。日の光を集めて枯れ草に火を点ける作業に着手する。
暫くすると、枯れ草の真ん中からぼっ、と音を立て、炎が燃え上がった。翔一は枯れ枝を折って水虎魚に突き刺し、火に炙る。
時太郎は、呆れて声を上げた。
「折角の美味い水虎魚を、焼くのか?」
「はい、生魚は毒でございますから」
「そうかあ? 魚は生で食ったほうが、遙かに美味いぞ!」
時太郎は、すでに水虎魚に頭から齧りついている。お花も同様だ。
翔一は焼きあがった水虎魚にかぶりついた。ほふほふと熱いところを口の中で転がし、それでも一心不乱になって食べている。
木の実を眺め、ぱっと口の中に放り込んだ。ぼりぼりと音を立て噛み、飲み込むと、今日の食事は終わりである。
河童は普通、一日一食でことたりる。
苦楽魔から離れて数日、翔一は時太郎とお花の旅になんとか従いてきたが、この一日一食の習慣ばかりは、一向に慣れない。
京の都を目指しているが、いったい何時になったら到着するやら判らない。しかし、時太郎とお花は、まるで気にしていない。
立ち上がる時太郎とお花を、恨めしげに翔一は見上げた。
食事で中断した旅の再開である。
歩き出した二人の後を、翔一はとぼとぼと従いていった。足取りは重く、肩をがっくりと落としている。