第一章:波打つ銀甲
##第一章:波打つ銀甲##
隣国グレイシア帝国による国境侵犯。その報せは、アルビオン王国の平穏を一瞬で引き裂いた。
事態を重く見た国王は、すぐさま軍の幹部と大臣たちを招集する。王宮の大会議室で行われていたのは、国の命運を懸けた緊急軍議だった。
だが、円卓を囲む男たちの視線は、広げられた地図には向いていない。
彼らの濁った目は、上座に立つセレスティーナの肢体を、舐めるように這い回っていた。
「――グレイシアの動きは、あくまでこちらを誘い出すための挑発です。深追いは敵の思う壺でしょう」
セレスティーナの声は、透き通った氷のように冷たく、その指摘はあまりに的確だ。
だが、そんな正論が男たちの耳に届くことはない。
彼女が指示棒を動かすたび、白銀の胸甲が大きく上下し、硬い金属の裏側に押し込められた豊かな胸が、その存在を激しく主張する。ふとした拍子に振り返れば、鎧の隙間から伸びるしなやかな太腿のラインが露わになった。
馬を駆るために鍛えられたその脚は、男を力強く締め上げる強靭さと、指が沈み込むような瑞々しさを同時に予感させていた。
室内に満ちているのは、建前としての敬意に隠された、下品な欲望だ。
そして、自分たちより上の地位にいる「女」を、力ずくで屈服させたいという醜い嫉妬。
セレスティーナは表情一つ変えないが、その白い肌には、無数の視線が粘りつくような不快な感触がまとわりついていた。
「将軍殿の言うことはもっともだが……王は早く結果を出せとおっしゃっているのだ」
沈黙を破ったのは、贅肉のついた顔を歪めた財務大臣だった。
彼の瞳は、セレスティーナの理知的な眼差しではなく、大きく開いた鎖骨から胸元へと続く柔らかな曲線に釘付けになっている。
「我々には『銀閃の将軍』がついている。負けることなど、あり得ないだろう?」
無責任な言葉に、周囲の男たちが下品な笑いで応える。
彼らにとってセレスティーナは、国を護る英雄である以上に、いつか自分たちが手に入れたいと願う、最高級の「獲物」に過ぎなかった。
まともな議論ができないことを悟った彼女は、小さく息を吐き、冷然と言い放った。
「……承知しました。私が先陣を切り、速やかに決着をつけます。ですが、決して無理な追撃はしないでください。それだけは、約束していただきます」
軍議を終え、私室に戻ったセレスティーナは、ようやくその身を締め付けていた重い鎧を脱ぎ捨てた。
留め具が外れ、金属が床に落ちるたび、圧迫されていた柔肌が解放されていく。
露わになったのは、汗で肌にぴったりと張り付いた、薄いアンダースーツ姿だった。
伸縮性のある生地は、成熟した身体の起伏を、隠すことなく鮮明に浮き彫りにしている。上気した白い肌からは、戦場に向かう前の緊張感と、熱を帯びた女特有の甘い香りが立ち上っていた。
鏡の前で自分の姿を見つめる。
そこにあるのは、冷徹な将軍の顔ではない。戦うために磨き上げられた肉体を持つ、一人の無防備な女の姿だった。
その時、部屋の隅で待っていた小さな影が動いた。
「母上……もう、行かれるのですか?」
アレクシスだった。
かつて見せた無邪気さは消え、その表情は不安に揺れている。
聡明な彼は、母が纏う空気が、いつもとは違うことを敏感に察していた。
セレスティーナは瞬時に表情を和らげ、アンダースーツ姿のまま息子を強く抱き寄せる。
「ええ。少し悪い狼たちを追い払ってくるだけよ。すぐに戻ります」
あえて子供向けの言葉を選び、豊かな胸の中へと息子の頭を優しく包み込んだ。
アレクシスの鼻先が、母の豊かな膨らみの谷間に埋もれ、温かい匂いを吸い込む。
「……約束ですよ」
「ええ、約束です。……アレクシス、良い子にして待っているのですよ」
彼女は息子の温もりを自分の肌に刻みつけるように、強く、長く抱きしめた。
数刻後。
再び冷たい鎧に身を包んだセレスティーナは、軍勢を率いて王都を発った。
背後で閉ざされる城門の重い音は、まるで彼女を戦場という名の檻に閉じ込める合図のように、不吉に響いていた。




