第九話 ボクしか知らない彼女の事情①
ウィルハース王国、第二の都市、アウグストにある冒険者ギルドは大騒ぎになっていた。
この街から近い、キラ火山のダンジョンで異変が起きたからだ。
ことの発端は、その火山を震源とする地震。それ自体による大きな被害は出ていないのだが、地震後すぐに現地へ向かったギルドの調査隊がダンジョンのラスボス、イフリートの消失を確認したのである。
そのイフリートから最も近い場所にいたグエルたちは、冒険者ギルドに戻ると、さっそく、ギルド職員へ事情を説明するように指示される。
「だからよ、エリオットが火口に入ったあと、地震が起きたんだ。それで、オレたちは仕方なく逃げたんだって」
ギルドの受付で、グエルが担当のアマンダにそんなことを話していた。
「――わかりました。残念ながら、調査隊もエリオットさんをまだ発見できていないそうです」
「そ、そうか――そりゃあ、残念だ」
グエルは「へ、へ、へ――」と笑う。
「その件につきましては、またあらためて聞かせていただきたいと思います。それで、提出していただいたアダマンタイト鉱石ですが、金貨十五枚と銀貨四十枚で引き取らせていただくことになりました」
アマンダの説明に、グエル、ニグレア、クローゼは「おおっ!」と声をあげる。
「ただし、エリオットさんが行方不明のため、彼の取り分である金貨三枚と銀貨八枚はギルドで預からせていただきます」
そう言われて、グエルは「えっ?」と驚きの表情を見せた。
「ちょ、ちょっと、それはオレたちパーティの報酬だろ? だったら、全部よこせよ!」
「そういう決まりですから」とアマンダは淡々と伝えた。
「そ、そんな……もし、このまま行方不明だったり、死んでいるのがわかったら、そのカネはどうなるんだ?」
「その場合は、エリオットさんのご家族へ渡すことになります」
「それは困る!」とグエルは声に出してしまう。
「なにが、困るのですか?」
「えっ? いや、その……そ、そう! ヤツはパーティを辞めたんだ!」
いきなり、そんなことを言い出した。
「お辞めになった? エリオットさんがパーティから離脱したということですか?」
「そ、そうなんだよ。ヤツが火口に入るとうるさいから、オレたちが引き留めたんだよ。そしたら、『なら、パーティを辞める』そう言って、ヤツは行っちまったんだ。なあ、そうだよな?」
グエルがニグレアとクローゼに顔を向けると――
「え、ええ、そうね。エリオットはパーティを辞めると言っていた――と、思うわ」
「ああ、そうそう。そんなことを言っていた――気がするなあ」
ニグレアとクローゼは、そんなふうに話を合わせるのだが、目はあきらかに泳いでいた。
「なあ、わかっただろ?」
グエルはアマンダに目を向ける。するとアマンダは――
「ミリアさん? その話は正しいですか?」
――と、修道服を着た少女にも確認した。
「――えっ?」
「なあ、そうだろ? エリオットは辞めると言ったんだよな?」
グエルはアマンダからは見えないように、ミリアを睨みつけた。それで、彼女は萎縮してしまう。
「ミリアさん? どうか、正直にお話しください」
「ミリア、言ってやれ。エリオットは辞めたって」と、グエルはミリアの腕を掴むと、強く握った。
「あ、あの……エリオットさんは、や、辞めました」
「ほら、どうだ? これなら、エリオットの報酬は要らないだろ?」とグエルはうれしそうにたずねる。
「――たしかに、エリオットさんが離脱したのであれば、報酬は四人で分担することになります」
アマンダがそう伝えると、グエルたちは喜んだ。
「それでは、報酬を用意するまでお待ちください」
そう言って、アマンダが奥に行くと、グエルはミリアを再び睨む。
「イイか? 絶対に本当のことを言うんじゃないぞ。言ったらどうなるかわかるな?」
「で、でも――」
「はあ? なんだぁ? オマエ、仲間にしてやった恩を忘れたわけじゃないよなぁ?」
ミリアは震えながら、「う、うん」と頭を下げた。
「わかったら、さっさと外へ出ていろ! いままでどおり、報酬はオレが預かっておく」
そう言うと、グエルは出口に向かってミリアの背中を押すのだった。




