第六十二話 ボクしか知らない、ボクの覚醒①
この街で一番大きいマドロウ商会のパン屋が突然お休みしたこともあり、マリーの店は朝から大忙しだった。
それも正午前にはなんとかひと段落する。セシルは店番をミレアに頼んで、厨房へと移動した。
「マリーさん、このゴミを外に出しておけばイイですか?」
厨房のゴミ箱が溢れていたので、そう尋ねる。
「ああ、ありがとう! そうしてもらえる? ワルイね!」
手の離せないマリーがそう返事をすると、「どういたしまして!」とセシルは元気に応えた。
「よいしょ!」
自分のカラダほどもある大きなゴミ袋を担いで、セシルは勝手口の外にある、ゴミ入れにそれを押し込んだ。そのとき、自分の名前を呼ぶ声が聞こえる。
振り向くと、そこに剣士の格好をした金髪の若者がいた。
「グエル――さん?」
兄、エリオットの冒険者仲間だった相手に、セシルは警戒する。グエルがエリオットを囮にして逃げたことを、兄から聞いていたからだ。
だが、グエルがこう話すので、それが一変する。
「セシルちゃん、エリオットがダンジョンで大ケガしてタイヘンなんだ!」
「――えっ?」
エリオットがケガをした――その言葉に、セシルは動揺してしまう。
「お、お兄ちゃんが!?」
「意識が朦朧として、セシルちゃんの名前を言い続けているんだよ。馬車を待たせているから、今すぐ行こう!」
グエルがセシルの腕を引っ張る。
セシルは「うん――」と相手の話を信じて、それに従おうとしたところ――
「あ、待って。マリーさんに話をしてから――」
「そんな時間はない! オレがあとで話しておくから、セシルちゃんは急いで馬車に乗って!」
そう言うので、セシルは少し迷いながらも、グエルの指示に従った。
その時、マリーの店の向かい側にいたメイド服で青い髪の少女、ラピスはセシルが走って店から離れていくのを見かけた。
「あれ、どうしたのでしょう?」
そう思い、彼女のあとを追いかけようとしたとき、マリーの店に三人組が近づくのが見えた。マドロウの息子、ロイドたちだ。まだ顔が腫れた状態で、店に入ろうとしている。
「またですか。懲りない人たちです。また、ボコボコにしてやりましょう」
そうつぶやきながら、三人組に近づく。
「アナタたち、マリーさんの店にはもう妨害しないと、昨日、誓いましたよね? なのに、証拠にもなくやって来るとはイイ度胸です。今日は骨の一本は二本、折られても仕方ないと思いなさい」
ラピスがそう相手に言うと――
「おいおい、何を言っているんだ? 今日は、オレたちタダの客だぞ」
「そうだそうだ。客に対して暴力をふるうってのか?」
ダダの客?
「そんな、口から出まかせを」
「だったら、見ていろよ。オレたちはふつうにパンを買いに来ただけだって、わかるからさあ」
「――わかりました。少しでも不穏な動きがあれば、取り押さえます」
それから、ラピスは三人の行動を注意深く監視する。だが、たしかに三人はふつうにパンを選んでいるだけだ。数分後――ちゃんとおカネを払って、彼らは帰ってしまう。
「――いったい、どういう風の吹き回しでしょう?」
肩透かしを食らった――という表情のラピス。そのとき、厨房から――
「ねえ? セシルちゃん、知らない?」とマリーの声が聞こえた。
「セシル様なら、さっき、店から出て行きましたよ。何か、買い出しにでも行ったのかと――」
すると、マリーは「おかしいなあ……」とつぶやく。
「ゴミ出しを頼んだだけのはずなんだけど……」
「――?」




