第六十話 ボクしか知らない、経営学⑤
エリオットが休業状態だったマドロウ商会のパン工房を買い取るなんて言い出したので、マドロウは頭に血が上り、手にした灰皿を彼に投げつけた。
だが、それは跳ね返って、マドロウに当たってしまう!
「うわっ!」
マドロウはそのまま、椅子から転げ落ちた。
「マドロウ様!」
慌てて秘書であるアイーシアが駆け寄り、マドロウを起こす。
「大丈夫ですか? 気をつけてくださいね」とエリオットはニッコリしていた。
「何を言っている! オマエがやったんだろ!」
そう言うマドロウだが、エリオットは表情を変えない。
「ひどいですねぇ。ボクは何もしていないでしょ? アナタがボクに投げつけたんじゃないですか? 本当なら、ボクが大ケガをしているところですよ。ですが、さすがにケガをしていないから、慰謝料は請求しません。良かったですね? これ以上、損失が増えなくて――あ、高価そうな灰皿が割れてしまったので、それは損失になりますね?」
エリオットがそんなふうに言うので、相手は余計、ハラを立てる!
「うるさい! オマエの顔など見たくない! さっさと帰れ!」
「わかりました。今日のところは帰りますよ。また来ますね」
「もう、来るな! この悪党!」
そんな悪口を言われても、エリオットは平然と部屋を出て行くのだった。
「くそっ! なんで、あんなクソガキにあそこまで言われなければならないんだ! オレはこのアウグストで一番の商人、ピーター・マドロウだぞ!」
そんな上司に、アイーシアはため息をひとつついて――
「ですが、このまま営業できなければパン屋はウチの不良資産となってしまいます。相手の言うとおり、金貨五十枚でも今のうちに売っておいたほうが得策だったのでは?」
アイーシアはそう助言するのだが、「オマエまでそう言うか!」とマドロウは怒鳴る。
「――タイヘン失礼しました」
すぐにアイーシアがあやまるので、マドロウの怒りもいくぶん、おさまる。
「こうなったら、儲けなどどうでもイイ。アイツが――あの小僧が絶望する顔さえ見られれば満足だ」
そんなことを言うので、アイーシアはまたヤレヤレという表情を見せた。
「――でしたらマドロウ様、私に任せてもらえますか? エリオット――あの小僧の絶望する顔を見せてさしあげましょう」
アイーシアがそんなことを言い出すので、マドロウは「それはまことか?」と聞き返す。アイーシアは今まで見せたことのない笑みでうなずいた。
「わかった。オマエに任した。必ず、小僧に後悔をさせてやれ。いいな?」
「はい、必ずや――」




