第五十九話 ボクしか知らない、経営学④
その日、マリーの店でパンを買った後、ダンジョンへ行く予定を少し変更してエリオットとガーネットはマドロウ商会へ向かった。
「何!? 小僧が来ているだと!?」
エリオットが面会したいと言ってきている――マドロウにそう伝えた秘書のアイーシアは、「はい――」と機械的な返事をした。
「ふざけるな! 会うわけないだろ! どこまで、コケにすれば気が済むんだ!」
「どこまででもじゃないでしょうか?」とアイーシアは小声で応える。
「はん? なんか言ったか?」
「いえ、何も。それでは、『支配人はお会いしたくないそうです』と伝えます」
アイーシアがマドロウに背を向け出口へ向かおうとしたところ、「待て――」と引き留められる。
「それではむざむざと負けを認めるようなモノだな――よかろう。何のつもりで来たのか、聞いてやろうじゃないか。小僧をここに連れて来い」
「――わかりました」
一分後、エリオットはマドロウの前に来ていた。
「小僧、何しにきた? また、ふざけたことを言うつもりなら容赦しないぞ」
そんなふうに、マドロウは脅してくる。
(容赦しないって、どんなふうに容赦しないのだろう……)
それはそれで興味があるな……なんて、考えるエリオットだが、ココはこちらの要件を率直に伝えようと考える。
「いえいえ、きっとマドロウさんにとって、都合のイイことですよ」
エリオットが言うと――
「ふん――まあ、イイ。言ってみろ、その要件とやらを――」
それでは――と、エリオットは机の上に金貨の入った袋を置く。
「金貨五十枚あります。これで、マドロウ商会が所有するパン屋とパン工房を売ってくれませんか?」
「はあ?」とマドロウは目を丸くした。
「何を言い出すかと思えば、パン屋を売れだとぉ? ふざけるな!」
マドロウは立ち上がり、机をドンッと叩いた!
「ちょっとうまくいっているからって、図に乗るんじゃない! 誰がオマエなんかに売るか!」
「だけど、このままじゃ建屋も設備もムダになってしまいますよ。それを買い取ってあげると言っているんです。渡りに船じゃないですか?」
「だからって、あのパン屋には金貨百枚以上注ぎ込んであるんだ! それを金貨五十枚で売れだと? 図々しいにもほどがある!」
そう言うマドロウに、エリオットはため息をひとつついて――
「お言葉ですが、パンを作れないのなら銅貨一枚の儲けも産みませんよ。それが金貨五十枚で売れるんです。どちらが得か、商人であるマドロウさんなら一目瞭然でしょ? ここは意地を張らずに――」
「キサマ! 言うに事を欠いて!」
マドロウは机の上にあった大理石の灰皿を手に取ると、それをエリオットに投げつける!




