第五十八話 ボクしか知らない、経営学③
タハールが小麦の買い付けから帰ってくると、三人の男性と一緒だった。彼らは、マリーの店で働きたいと言う。
「ちょ、ちょ、ちょっと、どういうこと?」
「実はマドロウ商会で働いていた、パン職人なんだ」
マドロウ商会で働く前は、他の街で働いていたそうだ。タハールに声をかけられ、このアウグストで働くことになったらしい。
「最初は給料が良くて、この街にきて正解だったと思ったのだけど、三日前からパンの仕込みを増やすために、残業させられるようになって――」
残業だけでは指示された数量を作りきれず、徹夜になっていたのだという。
「疲れも溜まって、失敗が増えると、その分を給料から差し引くと言われて――このままじゃ、働けば働くほど給料が減ってしまう……そう考えて、三人で話し合い、昨晩、逃げ出したんだ」
逃走の途中、たまたまタハールと出会う。彼からエリオットの話を聞くと、「自分たちも働かせてもらえないか――」ということになったようだ。
「働かせてほしいと言われてもなあ……マリーさん、どう思う?」
「どう思うって、ムリムリ! ウチの厨房は狭くて、私ひとりでやっと。とても四人なんてムリだよ!」
マリーは即答する。
「だよねえ……」
さすがに断るしかないか……と、思った時、エリオットはあることを思いつく。
「ねえ、マドロウ商会のパン工房は何人で作業をしていたの?」
三人に尋ねると、どうしてそんな質問をされるのか――という表情を見せながら、ひとりがこう応える。
「オイラたち三人と、店長の四人でやってたけど――それが?」
エリオットは「フフーン……」と意味深な笑みを浮かべる。
「それじゃ、アナタたちを雇うよ」とエリオットは言い出す。
「ちょ、ちょっと! 何を言っているの! だから、ここの厨房ではとても四人は働けないって――」
「うん、そうなんだけど、すぐに大きなパン工房を手に入れられそうだから――」と、エリオットは言うのだった。
「えっ? そんな工房の空き家があるの?」
「今は空き家じゃないんだけど、すぐに空き家になる予定なんだ」
エリオットの話に、全員「どういうこと?」という顔をする。
「まあ、その時になったら話すよ。それで、三人の名前は?」
三人は顔を見合わせると、ひとりが代表としてこう応えた。
「コイツがサムで、こっちがボブ、そしてオイラがジャックだ」
そのころ、マドロウ商会では――
「おい! パン屋が開店できない――とは、どういうことだ!」
秘書のアイーシアから報告を受けたマドロウが、机をたたいて聞き返す。
「実は、パン工房に職人が出勤していないようです」
当然、販売するパンも作れない。
「だから、それはなぜだと聞いているんだ! もうイイ! 店長を呼べ!」
「そ、それが……」
「それが――なんだ?」
「店長も、今朝から行方不明でして――」
「……はっ?」




