第五十七話 ボクしか知らない、経営学②
マドロウの息子たちがマリーの店にイヤガラセをしようとして、逆に、ボコボコの状態でマドロウ商会の前に『返却』された翌朝――
「エリオット君? どうして、マドロウ商会がイヤガラセをしてくると思ったの?」
昨日はひとりでダンジョンに入っていたエリオット。今朝もダンジョンへ行く前にパンを買って行こうとマリーの店に寄ったところ、マリーさんからそんな質問をされた。
「ああ、実は以前にも似たようなことがあったみたいなんですよ」
それは、一年前――
エリオットたちの養母でもあるマリシアが良く利用していた雑貨屋で、同じようなイヤガラセがあったらしい。
雑貨屋を営んでいた老夫婦は心身ともに疲れ果て、店をたたんでしまった。
ほぼ同じ時期に、マドロウ商会の雑貨屋が開店した。それで、イヤガラセがマドロウ商会の関与ではないかとエリオットは疑ったのだ。
経営学の中に、『起きている問題、およびこれから起こりうる問題について、同業の動向や社会情勢も踏まえて調査・分析し、解決策を導き出すことが大事』という文言があった。
エリオットはそれを実践し、考えられる障害について対策したのである。
「備えあれば憂いなし――ということかな? さすがに同じことはやってこないと思うけど、しばらく、ガーネットとラピスは店の警備をしてもらおうと思う」
「でも、本当にお兄ちゃんひとりでダンジョンに入って大丈夫なの?」
妹のセシルには、エリオットが身につけている魔道具の性能を話してある。だから、魔物が現れても、よほどのことがない限り安心だとは彼女も理解しているのだが、それでもセシルは心配してくれているのだ。
「でしたら、今日から私がエリオット様と同行します。こちらの警備はラピスが引き続き行いますので」
「えっ? ラピスひとりで?」
すると、青髪のメイドは「ひとりで問題ない。人間など束になってかかってきても、全員血祭りにしてやる」と物騒なことを言う。
(いや、だから心配なんだけど――相手が――)
「私がラピスちゃんをしっかり見ておくから安心して。ね、ラピスちゃん!」
セシルが青い髪の少女に抱きつくと、「こら、うっとうしい」とラピスは言う。だが、表情は決して嫌がっていなかった。
まあ、それならそういうことにするか――とエリオットも了解する。実のところ、ひとりでの掘削作業はけっこう退屈だったのである。
その時、店の扉が開く。
「ただいま帰りました」
「タハールさん!」
小麦の買い付けのため、産地に行っていたタハールが帰ってきたのだ。
「いろいろとお話をしたいことがあるのですが、まずは一週間分の小麦粉を持ってきました」
彼のうしろから、小麦粉の袋を担いだ男性三人が入ってくる。
「おおっ! 助かるぅ! 実は、予定より早くなくなりそうだったんだよねえ」
クリームパンの評判が広まっているようで、わざわざ遠くからもやってくるお客さんもいるらしい。おかげで、作ったその場で全部売れきれてしまうのだと言う。
エリオットは「それはよかった」とうれしそうだ。
「それで、この三人はお手伝いさん?」
タハールのうしろに立つ三人に目をむける。
「いや、それが……」とタハールは言いづらそうな顔をしているので、なんだろう……と思っていると、いきなり三人が頭を下げる。
「お願いします! オイラたちをこの店で働かせてください!」
――えっ?
「「「ええぇぇぇぇっ」」」




