第五十四話 ボクしか知らない、勝利の方程式⑨
「こんにちは」とピンクのローブを身に纏ったお客さんが入ってきた。
「いらっしゃい、レナさん! クリームパン、ありますよ!」
セシルが元気な声でそうアピールすると、お客ははずかしそうにうつむき加減で――
「は、はい、クリームパンをください――」
そう伝えるのだった。
「こんにちは、レナさん」とエリオットも彼女にあいさつすると――
「エリオットさん!」と驚いた様子だった。それだけでなく、ささっと離れてしまう。
(あれ? ボク、避けられている?)
なんか、彼女に対して失礼のことをしたかな? なんて、不安になってしまうのだった。
「それで、エリオット君、どうしてマドロウ商会の安売り攻勢がウチには影響しないと思ったの?」
マリーがあらためて尋ねてきたので――
「実はね、レナさんがそのヒントをくれたんだ」
そう、エリオットは言うのだった。
「えっ? 私が?」
ローブの少女は驚いている。
「うん。レナさんは買ったばかりのクリームパンをすぐに食べたでしょ? それで、マリーさんのクリームパンはパンとして食べられていないんだな――そう、思ったんだ」
パンとして食べられていない?
「ゴメン、ちょっと意味がわからないんだけど――」
マリーだけでなく、ココにいる全員が同じように困惑した顔を見せる。
「つまりね、パンって、ふだん主食として食べるモノでしょ?」
まあ、そうだよね――とみんなうなずく。
「でも、レナさんはいつ、クリームパンを食べていた?」
「――あっ!」
マリーさんのクリームパンは、いつの時間でも売れている。そして、彼女のように、その場で食べてしまう人もけっこういたのだ。
「そうだね。私もマリーさんのクリームパンはおやつで食べたい!」とセシルは言う。
「そう、そこなんだ。マリーさんのパンだから食べたい。それは三食の食事とは関係なく、欲求として食べるんだ」
それに対して、マドロウ商会に限らず、他のパンは空腹を満たすために食べている。
「だから、マドロウ商会がいくら安売りしても、ココのパンは売れるんですね?」
ミリアがそう言うと、エリオットは「そのとおり!」と応えるのだった。
「なるほど、わたしのパンは『別腹』なのね」とマリーはムネを張る。
「まあ……そういうことかな?」とエリオットは微妙な表情で肯定した。
「そして、近いうちにマドロウ商会のパン屋はつぶれると思うよ」
エリオットはそこまで言い切る。
「どういうこと?」
「昨日、マドロウ商会のパンを見たけど、焼き過ぎていたり、カタチが《《いびつ》》だったりと、同じ出来栄えじゃなかったんだ。そして、そういったパンは売れ残っていた」
原価割れの価格で販売しているうえに、売れ残りが出てしまうと、余計、損失が膨らむ。
本来、安売り攻勢は規模の大きい店が資金力にモノを言わせ、損失を耐えている間に小さい店が撤退することを見込んで行うのだ。そして、市場を独占したら値上げし、それまでの損失を補ってこそ初めて成功するのである。
「だけど、いつまでも相手が営業を続けていたら?」
「そりゃあ、作れば作るほど赤字が増えていくので、そのうちつぶれるわな」とマリーは頭を掻く。
「というとです」とエリオットはニッコリするのだった。
「お兄ちゃん、スゴーい!」
そう、セシルがほめるので、「いや、ボクは何もしてないから」と照れてしまう。
「よーし! そうとわかれば、じゃんじゃん作るよぉ!」
マリーが腕まくりをして張りきるので、みんなも「がんばろう!」と声を合わせるのだった。




