第四十七話 ボクしか知らない、勝利の方程式②
マドロウ商会に宣戦布告したエリオットは、そのあとマリーの店に寄った。
「いらっしゃいませ!」
中に入ると、女の子の元気な声が聞こえた。
「セシル、調子はどうだ?」
「なんだ、お兄ちゃんか――」
カワイイ、ピンクと白のエプロンドレスを着たセシルが姿を見せると、相手がエリオットだとわかって、気が抜けたような返事をする。
「なんだ――じゃないだろう? 一応、パンを買いにきたのだから、ボクもお客なんだけど?」
「それより、この服どう? マリーさんが選んでくれたの?」
そう言って、エリオットの前でクルッと一回転してみせる。チェックのスカートがフワッと広がった。
(おいおい、仕事中だろ?)
そうエリオットは苦笑いする。
(まあ、こうして元気なセシルが見られただけでもイイことにするか――)
セシルの病気が『マナ酔い』であるとガーネットが教えてくれて、処置もしてもらえるようになってから、セシルの体調は少しずつ良くなっている。まだ、激しい運動はできないし、疲れやすい面もあるのだが、以前のように何日も寝込むようなことはなくなった。
体調に自信がついたことで、働きたいと言い出したセシル。イイ仕事はないかと探していたところで、マリーさんの店の件がちょうどイイ具合に出てきたのである。
そして、もう一人――
「エリオットさん、私も働かせてもらって、ありがとうございます!」
そう言いながら頭を下げてきたのは、銀髪の少女だった。
「やあミリア、修道服姿しか見たことなかったけど、そういう服も似合っているね」
エリオットがそう声をかけると、少女は恥ずかしそうにうつむいてしまう。
「ちょっと! 私が先だったのに、どうして、ミリアちゃんの感想を先に言うのよ!」と、セシルが頬を膨らませる。
「もちろん、セシルも似合っているって!」
「なによ、『も』って! まるで、私はついでみたいじゃない! そりゃあ、ミリアちゃんのほうがカワイイかもしれないけど――」
「セシルもカワイイよ」と、急いでフォローするやさしいお兄さんであった。
「お客さん、店員をナンパするのはご遠慮いただけますか?」
そう言って、今度はマリーが出てくる。
「な、なにを言っているんですか! マリーさん!」
顔を真っ赤にする少年に、マリーはニヤニヤした。
「いやあ、ゴメンゴメン。でもね、こんなカワイイ子をふたりも連れてきてもらって、おネエさん、大助かりだよ」
そんなふうにエリオットへ感謝を示す。
「そうですか。役に立ってそうで、なによりです」
「役に立っているなんてもんじゃないよ。ふたりともスゴくがんばってくれているし、覚えもイイし、なにより、カワイイ!『こんなカワイイ子たちがいるなら、毎日来ちゃう!』って言っているお客さんもいたんだから! これはもう、『美人《《三》》姉妹のお店』って評判になっちゃうかもね!」
(さらっと、自分も含めているし――)とエリオットは苦笑いする。
「そうか、がんばっているか。セシルえらいぞ」と妹の頭を撫でると、セシルはとてもうれしそうな顔をした。
「まあ、がんばりすぎて、ちょっと、気が散ったりしてるんだけどね」とマリーは困った顔を見せる。
「気が散る?」
「これだよ、お兄ちゃん」とセシルは両手に持ったメモ帳とペンを見せた。
「ああ、セシル、やってくれているんだ?」
「もちろん!」
なにをやらせているのかというと――
マリーが作るパンの小麦と水の量を計り、その時の気温と湿度も記録してもらっていたのだ。
気温や天気に合わせて水の量を加減していると、マリーは前に言っていた。そこで、気温と湿度がパン作りに影響していると考え、セシルに記録をお願いしたのだ。
計量器と温湿度計はやはり古代王宮の宝物庫にあったモノを持ってきた。ついでに、ストップウォッチなるモノも持ち込んで、パンの発酵時間も記録してもらっている。
こういったデータが揃えば、マリーでなくても、マリーが作るのと同じおいしいパンがいつでも作れるのではないか――そう考えたのだ。
『経営資源を可能な限り数値化し、監視する――』
エリオットが学んだ経営学の中に、そういった内容もあった。
それを実際にやってみた――という感じだ。
「私も、いつかマリーさんと一緒にパンを作りたい!」そうセシルも言うで――
「うんうん、一緒に作ろうね。でも、お姉さんの域に達するにはタイヘンな修行が必要だぞ。そうだね、あと百年くらいはがんばらないと!」
いやいや……それじゃあ、人生に間に合わないから――
(そもそも、マリーさんは何歳?――)なんて考えるエリオットだった。




