第四十六話 ボクしか知らない、勝利の方程式①
マドロウ商会、支配人執務室――
高級木材、ホワイトオークで作られた机と椅子。そして、ワーウルフの毛皮を使用したソファ、そして大理石のテーブル。壁際にはアンティークな工芸品や、美術品が並んでいた。
その中で執務をする人物、ピーター・マドロウはカンドゥーラという南国の衣装を纏っている。彼は別に南国出身というわけではないのだが、行商で成功した人物がそういった国に多いので、自分もそれにあやかっていたのだ。
「アイーシア、小僧が何を企んでいるのか、わかったのか?」
エリオットたちが帰ったあと、さっそくエリオットの動向を探るように指示したマドロウ。秘書として雇っている美しい女性が戻ってくると、声をかける。
彼の前に立った彼女は、主人へこう告げた――
「はい、エリオット・ラングレーはマリーの経営するパン屋のため、小麦を調達するつもりのようです」
「マリー? ああ、あの女か――いったい、どうやって調達するつもりだ?」
「それが、ウチが解雇したタハールを取り込んだようです。すでにタハールは調達のため、小麦の産地へ向かったという情報があります」
タハールの名を聞いて、マドロウはクスッと笑う。
「タハールの人脈はもうこっちのモノだ。いまさら、ヤツが動いても充分な小麦なんて手に入るわけがない」
マドロウはそうたかをくくる。
「ですが、マリーの店は評判がイイのも確かです。もし、タハールが小麦を調達してしまったら、ウチのパン屋には大打撃になってしまいますが――」
アイーシアと呼ばれた秘書がそう懸念するので、マドロウは少し唸ったあと――
「そうだな。なら、このタイミングであの女の店を徹底的に潰してしまおう」
「それは、どのように?」
「安売りを仕掛けるのだ」
小麦のパンをもっと安く大量に売ることで、マリーの店のパンが売れないようにする。そんなことをマドロウは言い出した。
「安売りですか――確かにウチは小麦の在庫が充分あるので、採算度外視で販売し、数量も増やすことで相手のシェアも奪ってしまう――という策は有効だと思います」
「そうだろ?」とマドロウはニヤリとする。
「――ですが、数量を増やすためには、工房が足りません。人員も新たに雇う必要がありますが――」
アイーシアがそう問題点を口にすると、マドロウは「そのくらいなんとでもなる」と言い切る。
「工房の作業者を残業させればイイ。それでも足りなければ、二交代制にして二十四時間パンを作り続けるのだ。それで、今までの二倍作れるだろ?」
「――わかりました。では、そのように指示します」
アイーシアはそう応えると、一礼して執務室から出て行くのだった。
「――さて、あの生意気な小僧に商売とはどういうモノか見せてやるとしよう」
マドロウはうれしそうにそうつぶやくのだった。




