第四十五話 ボクしか知らない、負けられない勝負⑧
エリオットがマドロウ商会で宣戦布告を行っていたころ、アウグスト辺境伯の屋敷では――
「やあ、ウィル」
冒険者ギルドマスターのマコーミックが辺境伯の書斎に入ると、部屋の主にそう声をかけた。
「マコーミックか? ちょうどいい。今からそっちに行こうと思っていたところだ」
貴族らしい、豪華な臙脂のジャケットを纏った男性が、スキンヘッドの友人を確認して、そう声にする。
「「例の少年はどうだった??」」
ほぼ同時に同じことをふたりは言うのだった。
「どうって、おい。もう、会ったんだろ?」
「会った? 何を言っている? いつまでも少年が来ないから、どうしたのかと、聞きに行こうと思っていたところだよ」
二人の会話がかみ合わない。
「いや、だから、昨日、オマエと会うように紹介状を渡しておいたぞ?」
「だから、そんな少年は来ていないって……いや、まさか……」
ウィルと呼ばれた部屋の主は、となりの部屋に控えている執事を呼び出す。
「昨日、門を警備していた者を連れてきてくれ」
五分後、軍服を着た男性が入ってきた。
「お呼びでしょうか? 旦那様?」
「おい、マコーミックの紹介状を持った少年が訪ねて来なかったか?」
「少年ですか? ああ、いました。『領主様にお会いしたい――』なんて、ニセの紹介状を持ってくるから、『衛兵を呼ぶぞ』と脅して追い返しましたよ。それが、なにか?」
それを聞いて、ウィル――つまり、ココの領主であるウィル・アウグストは頭をかかえる。
「オマエはなんてことをしてくれたんだ――」
「えっ? まさか、本当に旦那様のお客様だったのですか?」
「ああ、それもこの領地の運命を変えるかもしれないほどの重要な人物だ」
そうウィルが説明すると、男の顔は見る見る青ざめる。
「も、申し訳ございません! 旦那様! ど、どうかお許しを!」
そう言って、土下座しながら頭を床に擦りつけるのだった。
ウィルはうな垂れたまま、「たしかに、前もって連絡をしていなかった私も悪いが……」とつぶやく。
「ハ、ハ、ハ! オレも紹介状ではなく、連れてくるべきだった。ワルイワルイ。そうだな、少年がギルドハウスに顔を出したら、今度こそ首根っこを捕まえて連れてくるよ」とマコーミックは友人であるアウグスト辺境伯へ伝えるのだが――
「いや、その必要はない」と辺境伯は立ち上がった。
「どうするんだ?」
「今から、その少年の家まで行く。昨日のお詫びも合わせてな。場所を教えてくれるか?」
そんなことを言うので、マコーミックは驚く。
「おいおい、領主様直々に行くのか? だけど、少年の家は城門の外だぞ。ヤツは領民権を持っていないから、街の中で暮らせないんだ」
「かまわない。さっそく、行こう――」
こうして、エリオットの周りはますます騒がしくなっていくのだった。




