第四十四話 ボクしか知らない、負けられない勝負⑦
翌日、さっそくマドロウ商会へ赴いたエリオットとガーネット。やはり、秘書という美しい女性に連れられて支配人執務室に入った。
「エリオット君、よく来てくれた。さっそくだが、これにサインをしてくれ」
ソファに座るや否や、いきなり一枚の紙をテーブルに置かれた。
「これは?」
「契約書だよ。なあに、形式的に必要なだけだ。サインしてもらえれば、あとは気にしなくていいから」
契約書ね――
いろいろと細かい文字が書かれている。中にはインクがにじんで読めない部分も――
読める部分だけ読んだが、雇い側はいつでも契約を解除できる――なんて、ことも書いてある。
それに、空白部分も大きい。マドロウにとって都合がいい文面を勝手に付け加えようとしていたのかもしれない。
ろくに字も読めない貧乏人――そうたかをくくって、エリオットに不利な条件で契約させるつもりだったのだろう。
あとで「話が違う」と言われても、「契約書にサインしている」と突っぱねればいいだけだ。
(勉強しておいてよかった。数日前なら、よくわからずサインしていたかもしれない――)
そんなことを考え、エリオットはクスッと笑ったあと、「マドロウさん、なんか勘違いしているようですね」と相手に伝えるのだった。
「――勘違い? それは、どういう意味かね?」
「ボクはマドロウさんと契約するつもりでココにきたわけじゃないですよ」
そう言ってやると、マドロウの表情が一変した。
「契約をするつもりはない? 本気なのか?」
「もちろん! ボクはココに挑戦状をたたきつけに来たんだ!」
エリオットはそう言って、契約書を破り捨てる。
「オイオイ、オマエは何を言っている?」
「マドロウさんはこの街で独占状態なのをいいことに、かなりあくどいことをやっているみたいですね」
エリオットがそう言うと――
「あくどい? 小僧、言いがかりはよしてくれ。私がどんなことをしたと言うんだ?」
マドロウの口調が、さっきまでとまったく変わっていた。ドスの効いた声でエリオットを威圧する。
(ついに、本性を現したな……)
エリオットはひるむことなく、こう続ける。
「お客や従業員を大事にしない経営者は必ず失敗するよ。ボクはそう学んだんだ」
その言葉にマドロウは含み笑いを見せる。
「何を言い出すかと思ったら――小僧、商売というのは『勝つか負けるか』、『騙すか騙されるか』なんだよ。お客や従業員を大事にする? はっ! そんな甘っちょろい考えで、カネが稼げるか!」
「ならマドロウさん、勝負しましょう。このアウグストの街で、どちらが生き残れるのか――そうですね、一年以内にボクはアナタをこの街から追い出します。そう宣言しましょう」
エリオットが言いきると、マドロウはそれを笑い飛ばした。
「バカか、オマエは! 小僧に何ができる? ちょっと、鉱脈を見つけたくらいでいい気になるな! 一年以内でこの私を街から追い出す? やれるモノならやってみろ。そうだな――なら私はひと月以内に、小僧をこの街から――いや、王国から追い出してやる! 覚悟しろ」
「望むところですよ」
こうして、エリオットとマドロウ商会の、戦いは始まったのであった。




