第四十三話 ボクしか知らない、負けられない勝負⑦
マドロウ商会から小麦を購入できなくなり、店を閉めることを決めていたマリーさんをエリオットは説得。店の継続を約束してもらう。そして、小麦の調達をやはりマドロウ商会をクビにされた、タハールさんにお願いするのだった。
その夜――
食事を終えたあと、エリオットはガーネットにたずねた。
「ところで、マドロウについて何か情報があった?」
「はい、このような音声が残っておりました」
マドロウの誘いがあまりにも不自然に思えたので、エリオットはマドロウの屋敷にある『仕掛け』を置いてきたのである。
それは『盗聴器』と呼ばれるモノで、文字通り、盗聴する魔道具である。
しかも、盗聴したい人物に小虫のフリをして尾行するという優れモノだ。
これも、王宮の宝物庫から持ち出した。ただし、レア度は『General』である。王族の宝として納められていたわけでなく、本来の目的である『盗聴』のために誰かが放ったモノではないか――というのがガーネットの見解だった。
それをマドロウに尾行させて、どんな話をしているのか探ってみたのである。
盗聴器とガーネットは魔力通信でつながっている――らしい。理屈はわからない――そして、盗聴器に記録されていた音声を彼女は確認、再生することができるそうだ。
さっそく、聴いてみる。ガーネットの口からマドロウの声が出てきたときは、なかなかシュールだった。
『ふん……まさか、一日考えさせてほしい――なんて言い出すとは思わなかった。無学のガキなら、カネさえちらつかせれば簡単に乗ってくると思ったのだがな――まあいい。あれだけの条件だ。断るはずがない』
マドロウはそんなことを言っている。
『ですが、あまりにも条件が良すぎませんか? 冒険者ギルドの下取り額の二倍を出すなんて――さすがに、こちらの儲けがありませんよ』
この声はたしか、自分を応接室へとエスコートした美しい女性の声だ。秘書とか言ったかな?
『なあに、最初だけだ。すぐに回収する』
『回収ですか? どのように?』
『ウチの闇カジノや売春婦を紹介してやるんだよ。しょせん貧乏人。大金を手にしてもムダ使いしかできない』
真面目に働いていた貧乏人ほど、遊びを覚えるとハマってしまうモノだ。しまいには稼いだカネだけでモノ足りず、借金をしてまで遊ぶようになる。
『なるほど、それで《《回収》》なんですね』
『そもそも、ダンジョンで採掘した鉱物を横流しした時点で、ヤツは冒険者をクビになる。そうなったら、ヤツはこちらの飼い犬。言いなりになるしかないのだからな』
ヘタに鉱脈を見つけてしまったのが運の尽き。カネの使い方を知らない貧乏人は結局、カネに溺れ、破滅していく。
『あとは、借金の担保として鉱脈の場所を聞き出す。それでヤツはお払い箱だ』
『なるほど、そういう算段だったのですね。御見それいたしました』
秘書の女性はそんなふうに謙遜し、上司の自尊心をくすぐる。
『かわいそうな小僧だ。貧乏人は、貧乏人のまま死んでいくのが、一番幸せだというのに――』
マドロウはそう呟くと、「ク、ク、ク……」と笑うのだった。
「――やっぱりそうだったか」
エリオットは腹立たしい――そんな表情を見せる。
「それで、明日はいかがします? マドロウ商会へ行くのはやめますか?」
ガーネットがそう言うと――
「まさか! 当然、行くよ。こんなにワクワクするのは久しぶりだ」
そんなことをエリオットは口にするのだった。




