第四話 ボクしか知らない隠しダンジョン④
巨大な魔物が立ち上がると、すぐにエリオットを見た。
「見つかってしまった!」
そう声にする間に、イフリートの口が開き、彼に向けて高熱のブレスを吹きかけてきた!
「うわっ!」
慌てて、クリスタルのうしろに隠れたエリオット。クリスタルがブレスを遮ってくれたおかげで、なんとか避けられた。しかし――
クリスタルに無数のヒビが入ってしまう!
パリン!
大きな音を立ててクリスタルの破片が飛び散った!
エリオットは腕を前に出して顔に当たる破片を防ぐと、改めて前を見る。
「えっ……?」
そのまま、しばらく絶句してしまった。なぜなら――
「お、おんなのこぉ!?」
彼の前に立っているのは、黒と白のエプロンドレス――俗にメイド服――を纏った少女だった!
そ、そんなまさか――クリスタルの中から女の子が出てきたなんて――
その少女は正面のイフリートを確認したあと、今度はうしろを振り向き、エリオットを見ている。
「……………………」
彼女は何か話しかけている。だが、エリオットたちの話す大陸語とは違う言語のようで、何を言っているのかわからない。
「えっ? 何?」
すると、今度は彼女が近づいてきて、いきなりエリオットに抱きついた!
「――!?」
突然のことで、エリオットのカラダは硬直してしまう。なにせ相手は女の子、それもかなりの美少女だ。柔らかい女性の肉体が服を通してでもハッキリと感じ取れた。
「――言語中枢とシンクロできました。私の言葉が理解できますか?」
少女の声だ。今度は大陸語で話しかけてきた。
「――えっ?」
「わかりませんか?」
彼女は首を傾げている。
「わかる……わかるよ!」
慌てて応える。
「そうですか……」と、メイド服を纏った少女は、無表情のまま、エリオットから目を逸らすと、巨大な炎の魔物に向けた。
「天災級モンスター、イフリートと認識しました。排除しますか?」
彼女はそんなことを言ってくる。
「排除って、アイツを倒すということ?」
「――はい」
やはり、無感情な言い方をされる。
「何を言っているんだ!? イフリートだよ! 騎士団を総動員しても倒せなかった怪物だよ! さすがにムリだって!」
そう相手を諫めるのだが、彼女は改めてイフリートを見た。
「問題ないと思います」
問題ないって……
この少女は自分が何を言っているのか、わかっているのか?
「それで、排除いたしますか?」と、再びたずねてきた。
「いや、排除できるなら、してほしいけど――」とエリオットは半信半疑で応える。
「――わかりました」
すると、少女はエリオットから離れる。イフリートの方向へ歩き出すと、今度は走り出した!
「ちょ、ちょっと!」
引き留めようとしたのだが、彼女はもうイフリートの懐まで潜り込んでいる!
「えっ? は、速い!」
「ギャァァァァッ!」
イフリートが奇声をあげると、メイド服の少女に向けて高熱のブレスを浴びせた!
「アブナイ!」
エリオットがそう言い切る前に、彼女はブレスの中に……
いや、次の瞬間、彼女はジャンプしてイフリートのアゴに蹴りを加えていた!
グシャァァァァン!
少女の蹴りで、イフリートは横転し、激しい音が響く。地面も揺れ、エリオットは立っていられずに、尻もちをついてしまった。しかし、自分のことを気にしてなんかいられない。
「ウソ……でしょ?」
目の前で起きていることが、エリオットには理解できなかった。
キラ火山のダンジョンが現れて五十年――それまで、多くの冒険者や騎士団が挑みながら、まったく歯が立たなかった怪物が、どちらかといえば華奢な少女の《《蹴り》》にダメージを受けているのだ!
仰向けに倒れたイフリートの上に少女は乗り上げ、今度は拳でイフリートの顔を何度も殴っている。その動きが高速すぎて、彼女の手が何本にも見えていた。
「な、何が起きているの?」
外見はふつうの少女。なのに、どうしてそんなに攻撃力がある?
いや、そのまえにイフリートの上で熱くないのか?
なぜかメイド服も燃えていない……
もう、何がどうなっているのか、理解が追いつかない。
そして――
「ギャァァァァァァァァッ!」
イフリートが奇声を発したと思ったら、次の瞬間、蒸発するようにイフリートの胴体が四散した――




