第三十九話 ボクしか知らない、負けられない勝負③
マドロウという商人がエリオットに接触してきた。彼は、エリオットが貴重な魔鉱石や珍しい武具をギルドに引き渡していたことを知っていた。
「どうして、それを?」
「なあに、私にもいろいろと情報源があるのでね。それで、キミのことに興味を持ったのだよ」
「ボクに――ですか?」
しばらくはゴールドラッシュのように盛り上がっていたキラ火山の魔鉱石採掘だったが、この一、二年は急激に産出が減っていた。
しかし、ここに来て、アダマンタイト鉱石やミスリル鉱石を連続して持ち込む少年がいる――そういうウワサがマドロウの耳にも届くようになっていたのだ。
(そういえば――)とエリオットはマコーミックの話を思い出す。
彼は、エリオットの情報を外に漏らさないように指示していたらしい。それでも、「いずれ知られて、エリオットに接触しようとする人物が現れるだろう――」と、マコーミックは言っていたのだ。
もちろん、接触してくる相手は友好的とは限らない。暴力によって脅迫してくることもある――そんなことも言っていたのだが――
(つまり、このマドロウという商人も、そういったカネ目当てで接触してきた――ということか……)
今のところ、チカラづくで従わせよう――という雰囲気ではなさそうだが、用心したほうがいい――そう、気を引き締める。
「キミは知っているかね? 冒険者ギルドが冒険者から買い取る金額は不当に安いということを?」
「――えっ?」
ギルドの買取金額は不当に安い?
「冒険者はダンジョンで収集したり採掘した品物は、ギルドに納めないとならないルールになっている。それをイイことに、市場の価格よりはるかに安い金額で買い取り、ギルドは大もうけしているのだよ」
アウグスト領内のダンジョンは冒険者ギルドが管理している。ダンジョンに入って採掘するためには冒険者登録が必ず必要だ。なので、たとえギルドが不当に安く買い取っているとわかっていても、それに従わなければならないのだが――
「ウチはギルドにもいろいろと取引がある。だから、ギルド側に多少の圧力を加えることが可能でね」
取引を続けるためには、一部の冒険者が直接、マドロウの店に魔鉱石を納めても目をつぶってもらうように要求できる――そう、マドロウは説明するのだった。
「わかったかな? そうそう、ウチが買い取る価格はギルドの二倍にしようと思う」
「二倍も!」
「どうだね? 悪い話ではないだろう?」
エリオットは少し考えたあと、「ひとつ質問してイイですか?」と切り出す。
「何かね?」
「どうして、ボクだけにそのような好条件を提示するのですか?」
「それは、キミがとても有望な掘削士だからだよ」
ここ数日、エリオットの活躍は目を見張るものがある。それは才能だとマドロウは言う。
そして、その才能をもっと伸ばしてほしい――そう、話すのだった。
「いいかい? このまま冒険者ギルドにいたら、キミは飼い殺しされてしまう。私はそれが我慢できないのだよ。私はいずれ冒険者ギルドからダンジョンの採掘権を買い取り、キミに任せたいと考えている」
「ボ、ボクに!?」
キラ火山の採掘量は今、下降気味だ。それを再び活性化するためには、エリオットのチカラが必要になる――そんなふうに、マドロウは語るのだった。
「どうだい? 私とそんな未来を見てみないか?」
「――とてもすばらしい話だと思います」
「それでは――」とマドロウが右手を差し出すので――
「でも、考える時間をください」
そうエリオットは応えた。
マドロウは少し黙ったあと――
「わかった。だが、明日までに回答をいただけるかな?」と、伝えるのだった。
「ありがとうございます」
エリオットは頭を下げる。
「いい返事を待っているよ」
その日はそこまでにして、マドロウの店を離れるのだった。
マドロウからの誘いは今晩じっくり考えるとして、まずはマリーのところへ行って、美味しいパンを買って帰ろうと考える。
「こんにちは」
「エリオット君! 待っていたよ。実はね……」と、マリーがいきなり話しかけてきた。
「ウチ、今週で店をたたむことになったんだ」
――えっ?
「ええぇぇぇぇっ!」




