第二十話 ボクしか知らないお金の使い方⑤
とんだジャマが入ったエリオットたちだったが、それから大聖堂などを見て回る。ガーネットも現在の建築技術に興味を持ったのだろう。熱心に見ていたので、連れてきてよかったとエリオットは思うのだった。
一時間ほど経過したところで、マリーの店へ戻ってみる。
「エリオット君! ちょうど焼きあがったよ!」
マリーが焼きたてのクリームパンを運んできたところだった。
とってもイイ匂いがして、オナカが鳴る。
「それじゃ、三つください」
「クリームパン、三つください!」
エリオットが注文すると同時に、クリームパンに飛びかかる勢いで注文する女性の声。
「――えっ?」
振り向くと、ピンクのローブを着た女性だった。
「あら、レナちゃん? 今日はもう来ないんじゃなかったっけ?」
マリーは意地悪く質問すると――
「やっぱり、どうしても食べたくなって……」とレナと呼ばれた女性は、うれしそうに話した。さっきはぼそぼそと話していたのでよくわからなかったが、今の声を聞くとかなり若い人のようだ。もしかしたら、自分と同じ年齢くらい? なんて、エリオットは考える。
「あ、あの、ゴメンナサイ」
「いえ、よろしかったら先にどうぞ」
「えっ? イイんですか?」
一日も我慢できないほど大好きだなんて言われたら、先をゆずるしかないよな――なんて、エリオットは思ってしまうのだ。
「ふ、ふうん。女の子に先をゆずるなんて、エリオット君、やっさしぃ! よ! 色男! スケコマシ!」とマリーはおちょくる。
「スケコマシってなんですか?」と、エリオットは苦笑いした。
「スケコマシとは、女性をたらしこみ、性的欲求を満たそうとする男性のことです」と、ガーネットは冷静に説明する。
それを聞いていた三人は、恥ずかしくなってうつむいてしまうのだった。
「あのう、なにかマズいことを言ってしまったでしょうか?」とガーネットは真剣にたずねてくるので――
「ハ、ハ、ハ.ガーネットちゃんて、オモシロイね」とマリーは複雑な表情を見せていた。
それから、焼きたてのクリームパン三個を袋に入れて、ローブの少女の前に差し出す。それだけで、イイ匂いが香ってきた。
「はい、クリームパン三個。銅貨六枚ね」
銅貨六枚と引き換えに、クリームパン三個が入った袋を手にするレナと呼ばれた女性は、すぐに袋の中のパンと取り出し、口に頬張った。その時、初めて彼女の顔をハッキリ見る。金髪に色白の美しい少女だったので、エリオットはちょっと意識してしまう。
「しあわせ……」
ローブの少女はうっとりした表情のまま、クリームパンにかぶりついている。なんか微笑ましく思えて――
「本当にクリームパンが好きなんだね?」
エリオットは思わず、そう声にしてしまう。すると、その少女は慌ててフードを被りなおし、うつむいてしまった。
「ハ、ハ、ハ! エリオット君、女の子に『甘いモノが好き?』なんてたずねるのは愚問というモノだよ」
マリーはそう茶化すので、レナと呼ばれた少女はなおさら恥ずかしがる。
「ゴ、ゴメン、そんなつもりは……だ、だけど、マリーさんのクリームパンは格別だと思うよ」とエリオットは素直な気持ちを口にした。
「私もそう思います!」
いきなり、ローブの少女が顔を近づけるので、エリオットはドキッとしてしまう。
「なんでしょうか、美味しさも格別なのですが、毎日食べても、同じようにふっくら、もっちりなんです! ウチの料理長が作ったパンでも、毎日味が違うというのに!」
「えっ? ウチの料理長?」
すると、その少女は慌てて、「い、いえ、何でもないです」と誤魔化そうとした。
「あ、でも、毎日美味しいというのはわかるなぁ。クリームパンだけでなく、マリーさんのパンはいつ食べても、味が変わらないんだよな」
この街には他にもパン屋があるが、マリー以外のパン屋は日によって美味しかったり、マズかったりする――そう、エリオットは話した。
「フ、フ、フ――諸君、よくぞ気づいた」とマリーは名探偵みたいな言い方をする。
「実は、コツがあるのだよ」
「コツ? どんな?」
するとマリーは――
「実のところ、私もどうやって説明してイイのかわからないのだけど――」
わからないのかよ!
「なんていうか、カンなんだ」
なんてアバウトな。
「今日は寒いなあ……と思ったら、すこし、発酵時間を長くしたり、天気が悪いなと思ったら、水の量を減らしてみたりすると、パンの味や食感が安定するんだよねぇ」
「ふーん……」と、それを聞いていた三人は、わかったような、わからないような顔になる。
「まあ、ようするに、私は天才ということかな?」
マリーはムネを張って、高笑いをした。結局、何がコツなのかよくわからない。
「ハ、ハ、ハ……」とエリオットはチカラなく笑うのだった




