第十七話 ボクしか知らないお金の使い方②
「ごめんください」
エリオットが店に入ると――
「いらっしゃ……エリオット君!?」
そんな声が聞こえ、中から赤毛の若い女性が飛び出してきた。
「――えっ?」
女性はその勢いのまま、エリオットに抱きついてくる!
「うわっ! ちょ、ちょっとマリーさん!?」
「エリオット君、生きていたのね!」
マリーと呼ばれた、エプロン姿のお姉さんがエリオットに抱きついたまま、そう叫んだ。
「死んだと聞いて、お姉さん、本当にショックだったんだから!」
ああ、こんなところまでその話が届いていたんだな――とエリオットは苦笑いする。
「心配かけて、ごめんなさい。ボクはこのとおりピンピンしているから。これからもこの店でパンを買わせてください」
「もちろんよ! ジャンジャン買ってね! それで、このメイドさんは?」
マリーの視線が、メイド服の少女に向かう。
「あ、紹介するよ。ガーネットっていうんだ」
すると、ガーネットは、スカートの裾をチョンとつまんで、頭を下げる。
「ガーネットです。マリーさん、よろしくお願いします」
「そうなんだ、ガーネットちゃん、よろしくね――って、なに? もしかして、エリオット君の彼女? スゴいベッピンさんじゃない! やるなあ!」
いやらしい笑みを浮かべながら、エリオットのこめかみをぐりぐりするマリー。
「ち、違うよ! そうじゃない! 彼女がボクを助けてくれて、今度、パーティを組むことになったんだよ」
慌てて説明するのだが、マリーは「へえ? パーティをねえ……」とまだ疑っているようだ。
「はい、エリオット様は私のご主人様です」
そう、ガーネットが答えるので――
「ご主人様ぁ? エリオット君、そういう趣味はいかがかと……お姉さん、ちょっと引いちゃうなあ――」
「ご、誤解だから! ガーネットもヘンな言い方をしないで!」
このままだと、特殊な趣味の持ち主にされそうなので、エリオットは慌てて「そ、それよりクリームパンがほしいのだけど!」と彼女に伝えた。
「あー、ごめんね。今、売れきれちゃって、急いで作っているの。あと一時間くらいかかっちゃうかな? それまで、待てる?」
一時間かぁ……と思ったのだが、せっかくだから待とうということになった。
その時、店の扉が開く。すると、ピンクのローブを纏った女性が入ってきた。フードを深く被っているので、顔が見えない。女性だとわかったのは、フードから少しこぼれている長い金髪からだった。店にエリオットたちがいると気づき、フードをより深く被りなおしている。
「いらっしゃい、レナちゃん!」
レナと呼ばれたローブの女性はスタスタと店の奥に入って、陳列棚を見渡している。
だが、ほしい商品が見当たらなかったようだ。彼女はマリーにたずねた。
「あのう、クリームパンは……」
「ああ、ゴメン! クリームパン、今切らしちゃってさ、あと一時間くらいしないと焼きあがらないのよ」
マリーは相変わらず、軽い口調で応対する。
「そう……ですか……あと、一時間ですか……」
表情はわからないのだけど、とても落胆しているのはその声でわかった。
「あのう、ボクたち、クリームパンが焼きあがるまで待っているので、もしよかったら家まで持って行ってあげましょうか?」
エリオットがそう提案すると、ローブの女性はなんかとてもビックリしている。
「えっ? 家まで!?」
「あ、ごめんなさい。厚かましかったですね」とエリオットが謝ると――
「い、いえ、そんなことは……でも……ま、また明日来ます」
そう言って、その女性は店を出て行った。
「あの子、一週間前から毎日ウチに来てクリームパンを買っていくんだけど、ずーっとあんな感じなんだよねぇ」
マリーは頭を掻きながらそう説明した。
「そうなんですね」
毎日って、よっぽどココのクリームパンが気に入ったんだろうな――なんて、考える。
それにしても、なんであんなふうにフードを深くかぶっているのだろう。まるで、顔を見られたくないような……
そんなことをエリオットが考えていると――
「それで、一時間どうする? よかったら、奥に入って。お茶でも出すから――」とマリーは言うのだが、「ううん、街の中をブラブラしてくる」とエリオットは伝えるのだった。
(ガーネットに街を案内したいし――)なんて考える。
「そう? それじゃ、またあとでね」
「はい、また」
そうあいさつして、エリオットたちは店を出た。
「さて、せっかくだし、この街一番の観光スポット、大聖堂に行こうか」
そうガーネットに伝えると、「はい、わかりました」と彼女は応える。
「大聖堂は最近できたばかりなんだけど、スゴい大きくて豪華なんだよ」なんて、エリオットは自慢げに話している――すると、後方から「おい、エリオット」と声をかけられた。
振り向くとそこに――
「グエル……それに、クローゼとニグレア……」




