第十五話 ボクしか知らない彼女の事情⑦
持ち込んだイフリートの魔石やアダマンタイト鉱石の鑑定をしてもらうため、ギルドのフロアで待っていたエリオット――入口から、自分の名前を呼ぶ声が聞こえる。
グエルの声だ。エリオットが振り向くと、相手は驚いた顔を見せた。
そのまま近づいてくる。
「エ、エリオット!? い、生きていたのか? ヨカッタな」と彼は白々しく笑って、エリオットの肩を抱いた。
「おい、あのことをギルドに言ってないだろうな?」
グエルは耳元でそう囁いてくる。
あのこと……つまり、火口へ蹴り落としたことについて――だと、すぐに理解した。
エリオットは「はあ……」と一息ついたあと、「なんのこと? ボクはあのときのことをおぼえていないんだ」と応える。すると、グエルは「なんだ、そうなのか――」と喜んだ。
どうやら、自分がやったことを黙ってくれている――と思ったようだ。
そのとき、アマンダの呼ぶ声が――
「エリオットさん、鑑定結果が出ました。こちらに来てください」
そう言われたので、受付に向かう。
すると、なぜかグエルもついてきた。
「なんだ? 何か買い取ってもらったのか?」
そう言われたので、「うん、まあ」とあいまいな返事をする。
「エリオットさん。買取額は金貨百五十枚となりました」
「ひゃ、百五十ぅ!」
なぜか、グエルまでが驚いている。
もちろん、エリオットもその額に驚いたが、グエルの声にビックリしてしまう。
「鑑定したアダマンタイト鉱石ですが、純度が非常に高い『最高品質』と判定されました。なので、この値段で買い取らせていただきます」
それにしても、金貨百五十枚とは――
「この金額にはまだ魔石の分が含まれていません。そちらは後日、評価が確定しだいお支払いいたします。それと、申し訳ありません。ギルドで本日払い出せる金額が、金貨五十枚までなので、残りは後日になってしまいます」
そう言って、金貨五十枚と百枚の預かり証をカウンターの上に置かれた。
金貨五十枚なんて大金を見たことがないので、エリオットはドキドキしてしまう。
すると――
「やったなぁ! これでオレたちは大金持ちだ!」
――と、グエルが浮かれているではないか!
「――どうして、オレたちなの?」と、エリオットがたずねると――
「何を言っているんだ? これはオレたちパーティ全員のカネだろ?」
そう言われて、ちょっとムッとしてしまう。
「おかしいなあ、ボクはグエルのパーティをクビになったと、さっきアマンダさんから聞いたのだけど?」
エリオットは平然とそう伝えた。
「お、おい、何を言っているだよ?」
「はい、たしかにエリオットさんのパーティ離脱申請は受理されております。ですので、このおカネはエリオットさん個人のモノになります」とアマンダは説明する。
「ふ、ふざけんな! 今までエリオットの面倒を見てきたのはオレだぞ。離脱なんて冗談に決まっているだろ?」
「しかし、離脱の件は正式に受理されていますので、ギルドとしてはグエルさんに報酬をお渡しする理由がないのですが――」
そう言われ、グエルは「ぐっ……」と口ごもってしまう――
「そういうことだから……」とエリオットはテーブルの上にある金貨と預かり証を手に取り、リュックに仕舞おうとした。
「なあ、エリオット。パーティをクビにしたなんて冗談だから。オマエからも言ってやれ、パーティ離脱の件はなかったことにしてくれって」
「――なんで?」
意味がわからない――という顔をエリオットはしてみせた。
「なんで……て、今まで面倒をみてやってただろ? オマエ、オレへの恩は感じないのか?」
「そうだね、今まで仲間に入れてくれてありがとう、グエル」
「だったら――」
「だけど、もうグエルたちのパーティに戻るつもりはないから」
するとグエルは顔を真っ赤にして――
「な、何を言ってやがる! オマエのようなウスノロの掘削士、しかも市民権のない孤児なんかをパーティに入れてくれるヤツなんて、このオレしかいないだろ!」
「ボク、新しいパーティを組むことに決めているんだ」
エリオットはメイド服の少女を指差すと、こう言いきった。
「ボクは彼女、ガーネットとパーティを組む!」
それを聞いたグエルが目を丸くする。
「は? オマエ、何を言ってやがる――」
「そうそう、アマンダさん。彼女の冒険者申請をお願いしたいのですが――」
グエルを無視して、エリオットがアマンダにそう伝えると、彼女は「承知いたしました。それで、ガーネットさんの職種はなんとすればよろしいでしょう?」と訊かれたので――
「そうだね……ガーネット、何がイイ?」
「私はメイドですので――」と応えるので、「さすがにメイドで登録するのは――」とアマンダが困った表情になる。
「なら、雑用係でお願いします」
まあ、それなら……と、アマンダもしぶしぶ申請書に書き込んでいた。
そんなやりとりを聞いていたグエルが大笑いする。
「はあ? 雑用係ぃ? 何の冗談だよ?」
「冗談じゃないよ」とエリオットは間髪入れずに応える。
「だから、ふざけんな! 掘削士と雑用係のパーティ? 戦闘職がいないのに、どうやって戦うんだよ!」
「気にしてくれてありがとう。でも、それの質問に答える必要はないよね?」
「なんだと?」
「それじゃ、ボクたちは次の用事があるから」とエリオットたちは外へ出て行くのだった。
残されたグエルは、肩を震わせる。
「エリオットのヤロウ、ふざけやがって……もうゆるせねえ」




