第十一話 ボクしか知らない彼女の事情③
自分の家に帰ってきたエリオットたちは、妹セシルと一緒に暮らすドワーフの老婆、マリシアにガーネットが機械人形なのだと教えた。
当然、二人はビックリする。マリシアにいたっては腰を抜かしてしまい、それはタイヘンだった。
なんとか落ち着きを取り戻し、それでは食事――ということになる。
「なんてことだい! 仲間を囮にして逃げ出すなんて、人として許されないね!」
ダンジョンでグエルたちにされた行為を二人に説明すると、マリシアが憤慨してしまう。
そんな彼女を見て、「ハ、ハ、ハ……」とエリオットはチカラなく笑った。
(まあ、それだけボクのことを大事に思ってくれているんだな)
そう思うと、とてもうれしくなる。
「それでどうするんだい?」
「えっ? どうするって?」
マリシアの質問がわからない――という顔をエリオットが見せる。
「呆れた。そんなひどい目に遭ったというのに、なんとも思わないのかい?」
「いや、そういうわけじゃないけど……」
たしかに、グエルたちをゆるせないとは思う。だが、あまりことを大きくしたくないという気持ちもある。
「どうしてだい? あんなヤツらをかばう必要なんてないだろ?」
「うん、グエルたちだけならかばうつもりはないんだけど、ミリアにまでペナルティが及ぶようなことはしたくないんだ」
ミリアは一緒のパーティにいた神官の女の子。エリオットより一つ下で、二カ月前から仲間に加わった。彼女も孤児で、教会の施設で育ったのだが、治癒士の素質があったので、少しでも施設へ恩返しをしたいと冒険者になったばかりだったのだ。
「セシルが体調の悪いときに、彼女が治癒魔法をかけてくれたこともあっただろ? その恩もあるからさ」
「だからって、そのコもエリオットを見捨てて逃げたんだろ?」
「うん、そうなんだけどさ。でも、もし、ボクも同じ立場だったら、逃げ出してしまったかもしれないし……」
エリオットがそう考えを伝えると、マリシアもそれ以上は言わない。
「私もミリアちゃんはゆるしてあげたいな。きっと、ミリアちゃんも後悔していると思うよ」とセシルも彼女を庇う。
セシルとミリアは年齢が近いこともあり、とても仲良が良かったのだ。
「うん、そうだね。ボクもそう思うよ」
「だけど、冒険者ギルドには行くんだろ? どう説明するんだい?」
そう言われると、エリオットも悩んでしまう。実のところ、ギルドにどう説明すればイイのか、まだ考えがまとまっていなかった。
「でも、ギルドには明日行かないと……イフリートの魔石や、新しいダンジョンで掘り出した鉱石をギルドに提出して報酬をもらいたいし――」
この世界では魔物類を倒すと魔石と呼ばれるモノがドロップする場合がある。それは非常に高値で取引されるのだが、イフリートほどの天災級モンスターからドロップした魔石は、金貨、数百枚になると言われる。数年間は遊んで暮らせるほどのおカネだ。
「それでハイポーションを買うんだ。もしかしたら、セシルの病気が治せるかもしれない」
病気やケガかある程度回復するポーション。その上位種がハイポーションになる。実のところそれが市場に出回ることはほとんどなく、売値もわからない。ポーションでも、金貨一枚ほどなので、おそらく金貨百枚は下らないはずだ。
「そんな高価なモノを私のために買うのはやめて」
セシルはそう断るのだが――
「何を言っているんだよ。ボクが冒険者になったのも、セシルの病気を治すためじゃないか?」
「だから、もう冒険者を辞めてほしいの」
それだけの大金が手に入るのなら、危険な仕事は辞めて家にいてほしい。そうセシルは言うのだった。
「だけど、それじゃセシルが元気にならないだろ?」
「ハイポーションでも私が元気になる保証なんてないんでしょ? そもそも、ハイポーションがどこで売っているかもわからないのに」
そう言われると、エリオットも言い返せなくなる。
その時、「あのう――」とガーネットが申し訳なさそうに声を出した。
「今、この世界に聖人様、聖女様はいらっしゃいますか?」
「せいじん? せいじょ?」
ガーネットは「生まれる前に神から神宣を賜った神官のことで、神の名のもとに奇跡を起こすことが可能な人物」、それが聖人、聖女なのだと言う。
エリオットとセシルは初めて聞く言葉で、当然、その存在を知らない。なので、自然に年長者のマリシアに視線が向かう。
「いや、聖人様がいらっしゃったのはもう百年以上前の話さ」
ウィルハース王国の東方にあるガルチ聖教国、そこを建国した人物が聖人ガルチだった。
「それ以来、聖人様は現れて……そういや、十年ちょっと前に、聖女騒ぎがあったかね?」
「聖女騒ぎ?」
ウィルハース王国東方のダルタール帝国で、女神アスタリア様の神宣を賜った妊婦がいたと騒ぎになったそうだ。だが、その妊婦は女の子を産んだ直後、何者かに殺害されてしまった。生まれたばかりの赤ん坊も行方不明になったというウワサが、このウィルハース王国にも届いていたらしい。
「きっと、その赤子も死んでいるだろう――というのが、もっぱらの話さ」
「そうですか……でしたら、もしハイポーションが売られていても、それはきっとニセモノです」
「――えっ?」
ハイポーションを製造するためには、神の遣いである聖人、聖女が清めた聖水を使用する必要があるそうだ。
「つまり、聖人様がいない現世ではハイポーションは作れないということ?」
「はい、残念ながら――」
それを聞いて、エリオットは「そんな……」と、とても落胆してしまうのだった。
「ですが、セシル様のおカラダはハイポーションでなくても、回復できるかもしれません」
「――えっ?」




