エピローグ②
完結です。
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ぜひ、見届けてください。
焚き火のそば、丸太で作られたテーブルにヴィヤーサンはついた。
「おおおう。やはり、なかなかスゴいな」
出されたマグカップを一口すすって、ヴィヤーサンは震え上がった。
中身は松葉茶である。この男は昔からこれが大の苦手なのだ。だから口直し用に、白湯も一緒に出してある。
「なんなの?嫌いなくせに毎回挑戦するのは」
ニラティが手早くマスを捌きながら笑った。
「いやいや、これでも慣れてきたんだよ?最初は一口が限界だったけど、この前は半分飲めた」
「無理してまで飲むモンじゃないでしょ」
やりとりを見て≠が笑った。
『相変わらずだね』
「ノットに笑われてるよ」
「そりゃよかった。子供に嫌われると、遊びに来るのが難しくなるからね」
そうして、もう一口慎重に松葉茶をすすった。
「なあ、ラティ……戻らないのか?サンジーヴァナに。
誰も君を責めたりしない。そもそも君は被害者だったじゃないか」
「ん?まあ……そうとも言えるのかね。
でも、アタシのせいでグチャグチャになったのは変わらないから……」
サンジーヴァナと野営地の復興に目鼻がつくと、ニラティは姿を消した。今はこの水源の管理人として、秘密裏にここでひっそりと暮らしている。ごく一部の人間を除き、誰も知らない。
あの惨状はニラティが引き起こしたわけではないが、開き直って居座るには、あまりに規模が大きすぎた。
「だが……君はヴァルセトラの支配を終わらせたんだ。それで十分偉業だよ、文句を言うやつもいるが、どんなことにもケチを付けるやつは必ずいる。気にすることじゃない」
ヴァルセトラが消えたことで社会は大きく変わった。
幅を利かせていた神職はその支柱を失い、勢いを大きく削がれた。
多くのレアメタルハンターは、無限のレアメタル買取先を失い、一時は混乱が見られたようだったが……レアメタルの需要が無くなることは無い。いずれ落ち着くだろう。
「今一番の話題は、塔の跡地をどうするかだね。あんなでっかいもんがいきなりなくなったもんだから、今は水が流れ込んででっかい水溜りになってる」
「そりゃすごい。いっそ湖にしちゃえば?」
ニラティが気まぐれに言うとヴィヤーサンは笑った。
「そりゃ素晴らしいアイデアだ。流れ込んでるのが川じゃなくて雨水だから、やたら汚いところに目をつぶればね。
そうそう、君の石碑やら銅像やらを建てる案もあるよ?」
「勘弁してよ!そんなもん作られたら、買い出しにも行けないじゃないか。
誰?そんなバカみたいなこと考えたのは」
「誰だと思う?」
ヴィヤーサンはテーブルの上の缶に手を伸ばした。中からつまみ出したのはヨックモックである。
「てっきり許可は取ってると思ったんだけどね。ここに来てるみたいだし」
「メレルツァか……あのバカに言っといて、そんなもん作ったらウチ出禁だって」
ニラティは苦い顔でそう答えた。
「ところがさ、賛同者もそこそこいるんだよ、イェンラとか」
「なんなのアイツ……」
うんざりと呟くニラティを見て、ヴィヤーサンは笑った。
「英雄なんだろ、彼らにしたら」
「イェンラはなんか違くない?なんかあいつ湿っぽい目でアタシをみてるときないか?
……皆を助けようとか、世界を変えようとか……そういう御大層な考えないよアタシ。
そんなヤツ祀り上げてみ?何も考えてない分ヴァルセトラより質悪い。絶対横暴な事する自信あるよ。やらかしの跡地は……現役世代の役にたつものにして欲しいモンだね」
「現役世代ねぇ……そういえばさ、最近金属生命体の数が随分落ち着いたんだよね。
もっと言えば減ってる……心当たりはあるかい?千里眼のニラティ」
「あ?あー……」
ニラティは湖の向こう、今だ空が赤く煤けたままの山脈を眺めた。
ディルガナもヴァルセトラも、まだあそこにいるはずだ。四千年の恋と、六万年で初めての恋は、まだまだあの火口のように灼けた山肌で燃え上がることだろう。
しかし、加工されても死なない金属生命体が、それくらいで消滅するとは思えない。巨大なヴァルセトラの塔も、全てが焼き尽くされたわけでもないだろう。
金属生命体は破壊された脳の復元すらやってのけたのだ、ヴァルセトラ相手に同じことができない理由はない。もちろん規模が桁違いなので時間はかかるだろうが。
いつの日か、ディルガナとヴァルセトラは一つになって……あるいは手を取り合って姿を現すかも知れない。
だがそれに何年、あるいは何万年かかるのかは、まるで想像もつかない。つまり、ディルガナが流星の君に首ったけの間、金属生命体はおとなしい……かもしれない。
それでも、この星本来の生命体たる彼らがいなくなることはあり得ないだろう。
「まあ……ひとんちのアレコレに口出すのは野暮だから……ま、絶滅したりはしないだろうから、ボチボチやればいいんじゃない?」
「なんだそりゃ」
首をひねるヴィヤーサンに、ニラティは笑いかけた。
「聞きたい?顔も知らないヤツの恋バナ。人間ですらないんだけどさ」
「想像もつかん上に長くなりそうだな……。
僕が言いたいのはそれじゃないんだよラティ。金属生命体が数を減らすと言うことは、君の予言やコンサルの価値が上がるということだ。
君はここにいてもいい、話すだけならリモートでもできるんだからさ。だがサンジーヴァナに窓口を設けるべきだ。どうしても君に会いたい奴だけ、僕が連れて来る」
「はーいその話はオシマイ。できましたー」
かたんとヴィヤーサンの目の前に置かれたのは、マスのムニエルであった。美しい焼き色と豊かなバターの香りは、とても焚き火で焼いたとは思えない出来である。
「えっ……ラティ、君は随分と料理が上達したんだね。昔はパンと野菜のごった煮みたいなもんばっかりだったじゃないか」
「ありゃラタトゥイユだ、アンタ名前も知らずに食ってたのか。
聞いたことない?暇人は料理か芸術に凝るのさ、あと釣り。宇宙の法則だね」
「なんだそりゃ……ん?なんで三人前あるんだい?……脳内の娘の分?」
ムニエルは三皿あった。ラティはその一皿の前に、首から外した錫杖を置いた。
「こっちは別口。食わせてやるって約束だったからさ……たまにこうしてあげてるんだ」
パランとの約束は果たせなかった。だが、忘れたわけではない。魂がここにある限り、こうして一緒だ。
「……そうか。僕はその人を知らないが……そうして君に覚えていてもらえるのは、幸せだね」
「だぁろ?
さあ、食べようか。これを食べたら、夕飯の付け合わせにキノコと、ソースとデザート用にベリーを取りに行くよ。最近群生地を見つけたんだ」
「オジサンとベリー摘みして楽しいかい?」
「見ず知らずのオジサンと相棒じゃ価値が違うだろ。今夜のツマミになるんだ、頑張って探せよ」
ニラティの隣に≠が腰を下ろした。味覚を共有しているので、こうして一緒に食べるのが恒例になっている。
「わかったよ。んじゃ、いただこうか」
「そうそう。黙ってありがたく食えばいいんだ」
一口。カリッとした焼き目の歯触りと、淡泊だがふわっと焼き上がった身に、バターのコクがしっかりとついてくる。
『うん。美味しいよ、マム』
≠が微笑んだ。ニラティもそっと微笑み変えすと、湖面を優しく風が駆け抜けていく。そこにわずかな銀色が漂って、遙か先まで飛んでいくのだった。
脳を蝕む鋼の芽 完
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脳を蝕む鋼の芽、以上で完結でございます。何かネタがあれば続編を……と思わなくもありませんが、今のことろ計画はございません。
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