エピローグ ①
シュランダは解き放たれた。
ニラティが望めば支配者の座に就いただろう。
しかし……
ご覧ください。
静かな青い湖に、小舟が一艘浮いていた。鼻歌と一緒に湖面へ釣り糸を垂らすのはニラティであった。
パンクでけばけばしいメイクは少々落ち着いたようであったが……大きな麦わら帽子が面白いほど似合わない。
「……ここだっ!」
アタリに合わせて釣り竿を引く。暫しの格闘の末、吊り上げたのは一匹のマスであった。
「よォし。結構デカいな」
『今日は結構釣るんだね。お客さん来るんだっけ?』
傍らでバケツを覗き込むのは≠である。最近、少し大人びた雰囲気を出すようになってきたようだった。
「まあ客かな、一応ね」
遠くからエンジン音が近づいてくるのが聞こえて、ニラティは岸へ戻ることにした。
森を背後に一台のトレーラーハウスが置かれ、隣には小さな装甲トラックが停められている。その隣に、今ここへやってきたばかりの厳ついバギーが停車した。
降りてきたのは一人の中年男であった。白髪交じりの頭に整えた口髭。流石に今日はいつものスーツではなく、分厚く頑丈なジャケットであるが、これもなかなか似合っていた。
「よう」
「早かったね。もう半日くらいかかると思ってたよ」
マスの入ったバケツを片手に、ニラティが小走りに戻ってきた。胸元でちりんと甲高く鳴るのは、あの小さな錫杖である。
「元気そうでよかったよ、ラティ」
「夕方になると思ってたよ」
「君を待たせると後が怖い。累計二百発くらい殴られてるんじゃないかな」
「人聞き悪いね、六割はビンタじゃないか」
「問題は手の形じゃないだろ」
二人そろってひとしきり笑って、男はサングラスを外す。やはりそれはヴィヤーサンであった。
「あれ?……なんか老けた?」
「そう見えるかい?だとしたら、君がこんな辺鄙なところに引っ込んでしまったせいだ。生活に潤いがなくてね」
「若さを外に求めちゃお終いだ」
「ひどいねえ。
さて、まずはご注文の品を見てくれないか」
笑いながら親指でくいっと背後を指した。覗き込むと、バギーに積まれたコンテナには、塩や酒を含めた生活用品がぎゅうぎゅうに詰め込まれている。
「多くない?」
「そうでもないさ、僕と君の中だろう」
小突かれると思ったヴィヤーサンであったが、ニラティから返ってきたのは、ふわりとした微笑みであった。
「ありがとう。さあ、座って。お昼まだでしょ?」
ここまでお読みいただきありがとうございます、感謝感激でございます。
気に入っていただけたら、お気に入りやブックマークで応援してもらえると本当に励みになります。
あなたの一言が、次の物語を紡ぐ燃料になります。
次回で完結です。ほぼほぼ終わっているようなもんですが、最後の雰囲気をお届けします。
かなり独特な作品に仕上げたつもりでしたが、どうだったでしょうか?よろしければぜひ感想で教えてください。
よろしければ拡散、趣味の合うお友達におススメしていただけると幸いです。
Xで更新情報、他作品の更新なんかも呟いておりますので、よろしければフォローいただければと思います。
https://x.com/YYKDdLD5z64pjhq
※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・出来事とは一切関係ありません。




