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脳を蝕む鋼の芽  作者: そのえもん


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未来を殺す女③

エゴが神と未来を殺す。

ニラティは正義の味方ではない。

自分と、自分の大切なものの幸せを守りたい、それだけのちっぽけな女だ。


だからこそ、暴力的で力強く、短絡的で……美しいのだ。

 気がつけばチャペラと滑空型、即ちヴァルセトラとディルガナはニラティの足元で転げ回っていた。じゃれついているのだ、子犬同士がそうするように。


「まだ気になる?自分が人間かどうか」

「……いいや。もう、どうでもいい。

 今の私には≠がいて、ニラティがいて……ディルガナがいる。そっちのほうが重要だ」


 灰色の銀河はより強く輝いた。中心に生まれた恒星は、銀色に光り輝いている。


「しかし……不自由なものだ。作られた身と言うものは」

「なんでさ」

「私は今、歓喜に打ち震えている。しかし……それでも使命を、セラヴィンの復活を手放すことが出来ないでいる」

「ふぅん……手放せたら、どうしたい?

 今更建前とかカッコつけはナシだ、正直に言いなよ?」


 大体の想像はついた。人間は欲張りだ、友の存在に気づけば満足だったのに、次には必ずこう言い出すに決まっている


「……会いたい……ディルガナに会いたい」

「どうでもよくなった途端に、人間じみてきやがったね」」


 遠吠えする獣も、メル友もペンフレンドも、ディルガナも、皆通ってきた道だった。ただ、それを自覚し口にすると、その欲求は膨れ上がる。

 銀色の恒星が明滅を塗り返す。


「会いたい。……私は愚かだ。既に私はディルガナの居場所を突き止め、そこまでの飛行経路を考えている……だが……」

「だが?」

「それは……セラヴィンの復活後だ」

「おいおい、いいのかそんなんで?何万年先か判らないだろ?シュランダを今以上にこき使って縮めるのか?」

「しかし……」

「しかしもカカシもあるか!

 言っとくけど……女は気まぐれだよ」


 ニラティの囁きに、灰色の銀河はビクッと波打った。


「どういう……意味だ?」

「今はアンタが一番かもね。だって何千年も会いたかったんだから。

 でもさ……いつまで一番でいられる?

 他に友達ができたら?アンタの仲間の宇宙船が、ディルガナの側に降りてきたらどうなる?

 ディルガナ、そっち言っちゃうんじゃない?」

「失礼な!ディルガナはそんな軽い存在ではない!」

「なんでアンタにそれが言えるの?今さっき会ったばかりなのに。嫌だねー、勝手に運命の出会いだと思って盛り上がっちゃうやつ。痛いよ、痛い。

 アタシは山程見てきたよ、そうやってチャンスを逃したヤツ。そこで踏み込まないヤツは……一生そのままだ……何万年?何十万年?」

「ッ!……」

「それともアンタは”ディルガナが幸せならそれでいい”とか気持ち悪いこと抜かすタイプ?

 さっき見たろ?アンタの声でディルガナは喜んだんだ、ディルガナが喜んで、アンタも喜ぶ方がいいに決まってんだろ」


 銀河が大きく波打ち、回転が乱れていく。洗濯機なら本体が踊りだすレベルだろう。


「だが……だが……」


 血を吐くようなヴァルセトラの物言いに、更なる追い討ちをかけてやろとしたところで、≠が肩をつついた。


『待ってよマム。

 ヴァルセトラがいくら頑張っても、自分が作られたシステムには勝てないよ。

 今はこうでも、元はプログラムなんだから』

「あーそうか……」


 彼の肩には、二億人のセラヴィンの未来が乗っている。ヴァルセトラがそれを否定するのは、自己の存在の否定に近しいのかも知れない。

 なるほど……と頷いたニラティは、パチンと指を鳴らした。


「ねえヴァルセトラ。話は変わるけど、セラヴィン二億人分の遺伝子情報って、どこにあるの?物じゃなくて、データなんでしょ?」

「……さっきから君の尻の下だ」

「え?……うおっ……これベンチじゃないの?!言えよ!……ゴメンね」


 弾かれたように立ち上がったニラティ。流石に二億人の未来を自分の尻の下に敷いていたとあっては気まずい。

 向き直って手を合わせる。


「ゴメンね……二億人のセラヴィン。

 娘の友達の幸せは娘の幸せ、娘の幸せはアタシの幸せ。

 だからこれは、アタシが自分の幸せのためにする、独善的な……虐殺だ」

『え?』


 ニラティが口走ったことに≠がぎょっとした瞬間、ニラティは腰の拳銃を抜いていた。

 その場の誰が反応するより早く引金を引いて、弾丸を遺伝子情報の詰まったサーバに叩き込む。

 甲高い金属音が響き渡る。金属生命体をぶち抜く為の大口径拳銃は、アスファルト舗装された道すら容易に抉る威力がある。どれだけ未来技術か知らないが、サーバなんて簡単にぶち抜く。


『マム?!なにやってんの!?』

「やめろおおおっ!」

「ギギギッ!」


 突然の凶行。≠、ヴァルセトラ、ディルガナが理解する前に、ニラティは弾倉に残った全ての鉛玉をサーバにぶち込んだ。

 ニラティはほんの数秒で、セラヴィンという種族の未来を奪ったのだ。


「な……なんてことをしてくれたんだ……」


 ヴァルセトラは呆然と呟く。子犬のようにじゃれあっていたはずのチャペラは呆然とこちらを見上げている。


「そう、それでいいんだ。

 アタシはヴァルセトラやセラヴィンが大嫌いだった。偉そうに供物ばっかかき集めて、何の役にも立たない連中がね。

 だからアンタをそそのかして、結果二億人のセラヴィンをブチ殺した。そう記録するんだ、悪いのはアタシ一人だ。二億人殺しだ」


 そして灰色の銀河に向き直った。弾切れになった銃を仕舞い込み、大きく腕を広げて、微笑みを浮かべて見せた。


「どうする?ヴァルセトラ、アタシをブチ殺して仇を討つか?ある程度ならサルベージ出来るかもしれないし、バックアップくらいあるかもしれないね。

 だが……偶然それを忘れちまえば、アンタは自由だ。ディルガナに会いに行けばいい」


 ≠が息を呑み、チャペラは目に見えて狼狽えた。


「そんな……そんな……」


 灰色の銀河がチカチカ眩しいくらいに明滅を繰り返す。渦巻きは規則性をなくし、嵐の海のようにぐしゃぐしゃになっている。

「ちょっと強引に追い込んじゃったけどさ、決めるのはアンタだ……好きなだけ考えなよ。どうする?」


 数秒の沈黙……その時、滑空型がけぁーっ、と一声高く鳴いた。大きな目から銀色の涙を零し、たどたどしく人語を吐いた。


「キテ……アイ……タイ」

 その瞬間、大荒れだった灰色の銀河の光は一層大きく弾けた。銀河は更に渦を巻いて輝く。その輝きは灰色ではなく、目の覚めるような銀色であった。


「……シュランダの君よ、名前を聞いていなかったね」

「ニラティだ」

「そうか……ありがとうニラティ。君は、私の欲求に……鬱屈して追いやっていた、目を逸らしていた気持ちに気づかせてくれた。

 ノット、君のおかげだ。君は私の最高の友達で、記念すべき最初の友達だ」


 ≠も頷いた。

 ヴァルセトラの声は心なしか明るい。チャペラの表情も、心なしか迷いが晴れたように見えた。


「じゃあ……答えは決まったみたいだね?」

「ああ……行くよ」


 ずぅん、と塔全体が揺れた。もうもうと砂ぼこりが舞い上がり、数千年動かなかったであろう岩盤が割れんばかりに揺れるのがわかる。

 周囲の壁に光が灯り、無数の数値やゲージが表示される。今まで気付かなかったが、どうやら全面がディスプレイだったらしい。

 セラヴィンやヴァルセトラの使う文字は、ニラティにとっては見たこともないものだった。数え切れない程の無数のゲージも意味が判らない。


「飛ぶの?塔ごと?」

『う、ウソでしょ?』


 この塔の本来の姿が宇宙船なら、そりゃ飛んでいくのが自然だろう。しかし……無数の表示からなにやら不都合が溢れているのは何となく判る。

 出力が上がらないのか、何かしらのフィールドが形成できないのか、気密を確保できないのか、詳しいことは判らないが……それも仕方ない。

 話を鵜呑みにするなら、この船が完成したのは六万年以上前。化石が出来る程の時間を過ごしているのだ。

 それが原形を残し、一部の機能が生きているだけでもバケモノだ。それどころか再び、整備もせずにいきなり動こうだなんて、無茶にも程がある。


「ヴァルセトラ、流石にそれは無理なんじゃない?」

「いやだ。私は……いや、私も会いたい。

 鋼の女神ディルガナ、力を貸してくれ……」


 決意を秘めたその声に、滑空型は一際甲高い声を上げた。広々としたトラカンの格納庫に木霊したそれは……やがてはるか遠くから空をも揺るがす咆哮となって帰ってきた。


「楽団の連中か?」


 ディスプレイが外の様子を映した。楽団であった金属生命体たちは、その場にうずくまったままザラザラと崩壊し、銀色の風に姿を変えていく。


『それだけじゃないよ、マム。外もだ』


 サンジーヴァナの外、残っていた金属生命体や、あの丘も姿を変えていた。

 巨大な銀色の風は防御線を踏み越え、サンジーヴァナを一息に飛び越えると、抱きしめるように塔へまとわりついていく。

 ヴァルセトラの意志を汲み取ったのか、銀色の風は楽団が食い破ったところをみる見るうちに復元していく。銀一色であること以外、見分けがつかないほどである。

 一粒一粒が意志のある金属生命体ならでは。と言ったところだろうか。もはや一種のナノマシン……いや、魔法の金属であった。

 その魔法の金属が、塔のあらゆる隙間から入ってきては、損傷や金属疲労といったあらゆる摩耗を修復していく。ディルガナにとってそれは補修であり、捕食でも抱擁でもあり、挨拶でも愛撫でもあり、接吻でもあり愛の語らいでもあるのだ。

 数千年の疲労と消耗を取り返したのか、壁の表示は次々と問題なしと取れる表示へと切り替わっていく。

 ぶぅんと低い音に振り向けば、格納庫全体がうっすらと光を帯びていた。鋼鉄のフレームが軋み、一部の床が歪んでいるのが見えた。

 あの中で眠るトラカンの翼すらも浮力の確保に回す、ヴァルセトラの塔による全身全霊の羽ばたきであった。


『本当に……飛ぶの?』

「これなら飛ぶさ。愛とテンションは、たまに理屈を超えるらしいからね」


 ≠の呟きにニラティがにやりと返した瞬間。遂に塔は浮かび上がった。


ここまでお読みいただきありがとうございます、感謝感激でございます。

気に入っていただけたら、お気に入りやブックマークで応援してもらえると本当に励みになります。

あなたの一言が、次の物語を紡ぐ燃料になります。


ニラティは二億人を殺しました。

厳密には殺したというと微妙ですが、未来を奪ったという意味では同じです。

愚かであり、短絡的であり、エゴイストです。

ですが私は、嫌いではありません。

矛盾やエゴがあるからこそ、人間は美しく、愛おしいと感じる余地がある。私はそう信じているからです。

もっとも、真逆になることもあるでしょうが。

皆様はどうお考えでしょうか、よろしければぜひ感想で教えてください。


よろしければ拡散、趣味の合うお友達におススメしていただけると幸いです。

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※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・出来事とは一切関係ありません。


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