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脳を蝕む鋼の芽  作者: そのえもん


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聖者の行進⑥

神を騙るAIの望みとは。


ニラティの理屈は優しくないが、自由であった。


是非ご覧ください。

「なんだ、ここ……」


 ニラティは呆然と見上げた。そこは、広間とかホールとか、もちろん街とか、そういう可愛げはまるでなかった。


「ここはトラカンの格納庫だ」

「……随分味気ないとこにお住まいで」


 高層ビルのように巨大な鋼鉄のフレームがところ狭しと立ち並んでいる。肩の上からぴょんと飛び出した滑空型がよじ登り、滑空しながら辺りをきょろきょろと見まわしている。警戒と言うよりも、物珍しいという無邪気な様子であった。

 フレームの内側は蜂の巣のように区切られ、覗き込むとゼリーのようなものが満たされていた。よく見るとゼリーの底には、胎児のように丸まったトラカンが収められているのが見えた。


「寝てる……?」

「寝てるものもいるが、それは言うなれば胎児だ」

「は?……随分デカい胎児だこと。鎧も錫杖も持ってるじゃないか」

「トラカンはその中で発生し、育ち、装備を身につけ、誕生までにすべての戦闘訓練を終わらせる。成熟すれば必要に応じて出撃し、帰還すればその中で整備と補給を受ける。

 肉体はクローン情報の組み合わせだ。今は……十二パターンの遺伝情報を使っているね。

 ……どうだい?立派な肉体だが、それは人間だろうか?カルシウムとタンパク質と脂質で作られたロボット。その方が近いのではないか?」

「こんなの人間じゃない……つったら”君の先祖もこうして生まれたんだよ”とでも言うつもりか?」


 吐き捨てた……のは最初の一言だけだった。不愉快でこそあるが、ニラティはそれを顔にも出さぬよう耐えた。


「その通りだ。シュランダは生命力と繁殖能力を高く調整して作られた人種だ。

 最古のシュランダ、およそ百人もこうして生まれた。ここまで増えて独自の文明を築くのは想定外だったが……」

「レアメタルが集まるならいいや、って放置してたのか。なるほど、だからサンジーヴァナで大騒ぎが起きても、何もしないわけだ。

 家畜の群れの中でどんなブームが起ころうが、飼い主に噛みつかなけりゃどうでもいいもんね」


 野に放てば自分で食料を探し、文明を作り、勝手に増えていく労働力。我ながらシュランダとは、随分と都合のよい生き物であるらしい。なんとも不愉快な話である。平飼いのニワトリと大差ない気分だ。


「肉体情報が重要なら、君たちも不自然ではないか?タンパク質と脂質とカルシウムの組み合わせが、そんなに重要だろうか?

 ……私と何が違う?

 電気信号を制御するのがシリコンと金属になっただけどはないか」


 ヴァルセトラの吐き捨てるような一言に、ニラティはため息をついた。


「あんたさ……肉体ないのがコンプレックスなんじゃない?」


 ニラティがボソリと言うと、チャペラは凍りついたように動きを止めた。


「……違う」

「そう?ならいいけど」

「違う、そんなはずはない。

 維持するだけで資源を消費し、数十年で劣化する体に。その度に効率の悪いコピーを作らねばならない、そんか非効率的な存在に……なんの価値がある。

 合理的……そう、合理的な判断こそが生存に重要なのであって――」


 後半は聞き流した。内容どうのうよりも、言われなくても次々まくし立てるあたり、かなりの地雷だったらしい。


「ふふふ……よかったじゃないか。肉体があったら、アンタ今頃顔真っ赤だよ。さっきからシッポ……プルプルしてる」


 薄ら笑いと共にそう言った瞬間、ヴァルセトラはぎょっとしたように押し黙り……やがて、弾かれたように駆け出した。


「え?おいおいおい!待ってよ!」


 慌てて駆け出す。人間離れした今のニラティでも、流石にチャペラの機動力には歯が立たない。あっという間に置き去りにされてしまった。


『……今のは酷いよマム。意地悪だ』


 声に振り向くと、≠が批判するような目線を投げかけてくる。


「そんなに?アタシはちょいとしたジョークのつもりなんだけど……」


 すると≠は完全に呆れたようだった。戻ってきた滑空型までも、ニラティを責めるようにギャアギャアと声を上げた。


『ああ、悪気ないんだ……。更に酷いね……仕方ない、追いかけよう……会ったら謝るんだよ?』

「……わかった」

 娘に説教されてしまった。思ってみなかったことであるが……存外悪い気分ではない。誰かの心を庇って怒れる、そんな精神性を育めた自分がほんのりと誇らしかったのかもしれない。


 だだっ広い格納庫を通り抜けた先に、格納庫の壁に辿り着いた。見上げると、かなり高いところがテラスのように張り出しているのが見えた。

 ヴァルセトラはそこにいるらしい。制御を奪われたといえ、ガワが金属生命体である以上、チャペラの反応は追えるのだ。


「おーい、ヴァルセトラ、聞こえる?……アタシが悪かったよ、言い過ぎた。話の続きをしよう。アンタは……ああ、人間と大差ない。これでどう?器なんかどうでもいい、別にそれに異論はないよ」


 これといった反応はない。だが、逃げたり拒絶するような気配もないならばと、ニラティは外付けの階段を登っていく。


「大差ない……か。

 つまり、人間ではないと言ってるのと同じだな」


 テラスまでは随分と距離があるはずだが、ヴァルセトラの声がした。果たしてコレが肉声なのか、あのチャペラが電波でも送って来ているのか……既に自分にしか見えない≠を受け入れているニラティにとっては、大きな問題ではなかった。


「わかった、人間でいいよ。いいんじゃない、それで?て言うかアタシに決める権限ねえし……つーか、誰にもそんなもんねえし。アタシに迷惑かかんなきゃ、好きにすりゃあいいじゃんか。

 自分で言ってたじゃないか、人間と大差ないと認識してるって。

 そんなこと言ったらアタシが人間かどうかも怪しいじゃないか。シュランダだぜ?ルーツが作りもんの家畜なんだからさ。

 で?だからなにって話じゃんか。ルーツが家畜だったら明日から首輪つけてケージ飼いなのか?そうならぶっ殺すけどさ、違うじゃん。だったら大いに結構、カワハギって知ってる?天然より養殖のが高いんだよ?それと似たようなもんじゃんか、肝がデカくて美味いんだ……おふっ」


 どす、っと脇腹に≠の肘が軽くめり込んだ。フォローになってない、と睨まれてしまった。気難しい娘だ、誰に似たのやら。

 苦笑いしていると、ヴァルセトラの声が返ってきた。


「作られた命も同じ命、君はそう言いたいのか?」

「いいんじゃない?それで。同じかどうかは判んないけど、似たようなモンでしょ。優劣つけられたら腹立つけど、そんな奴のことは知らん。そいつが自分にとって気分がいいかどうか、その方が有用だ。

 そこらに転がってる石ころも、窯で焼いた人工石も似たようなもんだろ?落とせば割れるし、かじれば味がしなくて歯が欠ける。

 区別したいヤツもいるだろうけど、アタシにとっちゃ同じようなもんさ。何が問題なのさ?希少性?そりゃしょうがないだろ。

 どう?アタシはもう認めたよ?ヴァルセトラは人間だって、今ここでアンタを人間扱いしてないのは、アンタ自身だ。

 でも、これで満足……じゃないでしょ?」


 大声で会話しながら階段を上り続ける。長年荒野を駆けずり回ってきたニラティ、足腰や尻には自信がある。この程度ではヘバらない。


「でもあんたさあ……人間って言われて……なにか変わる?肉体に大した意味ないんだろ?非効率的なんだろ?

 サンジーヴァナのシュランダはアンタを上位の人間だと信じてる、それじゃダメなの?何なら神扱いだよ?」


 事実ヴァルセトラは数千年に渡って供物を受け取り、信仰されている。人間どころか、神ではないか。

 神を騙る人間はいるだろうが、その逆はそこそこ珍しい。美しい娘に恋して神の座を捨てる、くらいの話ならロマンチックだが、肉体のないヴァルセトラにそんな動機が芽生えるだろうか?


『ん?』


 ≠が小首を傾げた。何かに気付いたのかもしれないが、延々と続く階段に嫌気が差してきたニラティは気づけなかった。



ここまでお読みいただきありがとうございます、感謝感激でございます。

気に入っていただけたら、お気に入りやブックマークで応援してもらえると本当に励みになります。

あなたの一言が、次の物語を紡ぐ燃料になります。


ニラティの人間論は乱暴です。ちっとも優しくありません。

しかし「名乗りたいなら好きにしろ」というのは自己責任の極みかもしれません。

難しい……というか、明確な正解はないかもですね。


よろしければ拡散、趣味の合うお友達におススメしていただけると幸いです。

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https://x.com/YYKDdLD5z64pjhq


※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・出来事とは一切関係ありません。


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