表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
脳を蝕む鋼の芽  作者: そのえもん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/86

果たせなかった約束 ③

目覚めたニラティは何をするのか、

最後の一山がここから始まります。

是非ご覧ください。

 ぱちりと目を開けると、二ラティは自分が様々な機械に繋がれているのに気付いた。

 人工呼吸器、心電図、点滴その他諸々が全身に張り付いたその様子は、まるで体に根が生えたようだ。せっかく金属生命体から解放されたというのに、今度はベッドに埋め込まれてしまうではないか。

「大げさな……アタシゃ大病人かっての」

『でも、その辺の長椅子にゴロンと転がされてたら怒るでしょ?』

 すぐそばの折りたたみ椅子には、≠の姿があった。その姿も声も二ラティの脳内で作られた幻であるが、今までよりもっと鮮明であった。

「当たり前だろ、見たことないくらいキレるわ。

 病院……じゃないね、さっき見えた大型戦車の医務室かな?」

 舌打ちして乱暴にむしり取る。点滴針を抜くのは少々怖かったが、どうにかスムーズに抜けた。そうしてもぞもぞしている間に全身を覆っていた銀色の光沢は、化粧水でも塗り込んだように肌へ吸い込まれていった。

「参ったな、そういう時はもうちょっと可愛げのある目覚め方をしてくれよ、ラティ。仮死状態だったんだろ?ここら一体で一番元気なんじゃないのか?」

 急な声にびっくりして振り返ると、長椅子に横たわったままのヴィヤーサンの姿があった。他に人がいる様子はない。

「……アンタこそなんでいるんだよ、ヴィヤーサン」

「取り敢えず君に出来そうな救命措置が終わったのが半日前。

 そうなりゃ他の皆は、レアメタルハンターとして、あるいは医療人として後片付けや諸々やることがある。なんせここは大型戦車の中だからね。

 そんな中で、ノンアルコール水商売のおじさんができるのはなんでしょう?ヒント、避難所の本部にはおっかねえ爺さんがいます」

「……なにそれ」

 眉を寄せるニラティに、ヴィヤーサンはふわりと笑った。

「正解は、君の付き添いだ……おかえり、ラティ」

 まっすぐに目を覗き込むヴィヤーサン。少し照れくさくもあったが、二ラティは正面から向き合うことにした。助けられた者としての礼儀だ。

「ただいま……ありがとう、みんな」

「素直でよろしい。外見はパンクなおねーちゃんでも、中身がオバハンなだけあるね、TPOが判ってる」

 ヘラヘラと笑うヴィヤーサンの胸元でなにかが光った。

「……その懐中時計、まだ使ってるの?」

「当たり前だろう?君のライターよりは自然だ」

 時計の裏側には”友の成功を祈って N”と送り主からのメッセージが刻まれている。まさか二十年以上も使っているとは思わなかった。

「どうだいラティ、何処か痛いとかはないか?……右足以外で」

「あ?」

『え?』

 そこで始めて二ラティは、右脚の膝から下の感覚がないことに気付いた。だから≠と二人揃って気付かなかったのだ、添え木と一緒に分厚く包帯を巻かれている右脚に。

「君が覚えているか判らないが……落ちる時に潰れてしまったらしい。一応繋がっているが……動かせるようになるには、年単位のリハビリが必要だろう」

「ありゃりゃ……」

『……なんか軽いね、マム』

 確かに大事なのだが、一度死んだり脳が抉れたりを経験した二ラティにとっては、その程度のことでしかなかった。レアメタルハンターの業界的にも、義肢の使用者はさして珍しくもない。面倒ではあるが、つながっているだけありがたい話だ。

「んっ……!」

「どうした、どこか痛むのか?」

 唐突に身を捩って顔を伏せた二ラティにヴィヤーサンが駆け寄る。

「待ってろ、今医者を呼んで――」

「違うッ……これは……」

『マム?どうしたの?』

 これは痛みではない……熱い。右目の奥底から熱いものが込み上げてくるのだ。

 やがて右目からドロリ流れ出たそれを、二ラティは反射的に掌にうけた。それはカップ一杯分ほどもない、銀色の液体であった。

 それは焼いた鉄板に落とした水滴が焼けていくかのようにかさを減らしていく。やがて銀色の涙が干上がると、そこには鍵のような棒切れが残った。

「今のは……なにが起きたんだ?」

 目を見開き、幽霊でも見たような顔をするヴィヤーサンであるが、二ラティと≠はすぐにそれがなんだか判った。

『パランの……』

「ああ……形見だ」

 大きさこそ随分縮んだが、それはかつてパランが使っていた錫杖と同じものであった。

「何を言ってるんだラティ。目から出てきたもんが……誰の形見なんだよ、右目か?」

「ほっとけ。いい女はミステリアス、こんなの世界の常識だろ?」

「限度あるだろ」

「うるさい。いいから、ほっとけ」

 ぴしゃりと言い切った二ラティは、ベッドサイドの引き出しを探った。 

「紐と……何か書くものない?」

「バカ言え、まずは医者だ」

 内線をかけるヴィヤーサンの背中を眺めながら、二ラティはぽつりと呟いた。

「まだ、アタシの中じゃ一段落ついてないんだけどなぁ」


 医者を呼び、診てもらいはしたものの、出来ることはそう多くない。なにしろ二ラティの体は、とっくの昔に一般的なシュランダの範疇から外れているのだから。戦車内の医療機器が限られているのもあるが、仮に大きな病院に移ったところで、金属生命体と融合している二ラティは、磁気や電磁波を使う検査を拒否しただろう。

 勝手に医療機器を外したことに説教をくらいながら、二ラティはごく簡単な検査と問診を済ませると、何やらカリカリと書き始めていた。

「へぇ、初めて見たよ。君が自分から何かを書き記すところなんて」

「ガラじゃないのは判ってる。でも、こうしないと通じないヤツがいるのさ」

 薄く笑ってペンを走らせる二ラティであったが……その動きが止まるのに五分もかからなかった。頭を抱えて突っ伏すのは、右足が潰れたと聞いた時よりよっぽど苦しそうであった。

「ええと……つまり……クソが」

 真っ先に書き殴ったメモとにらめっこして唸っているが、ヴィヤーサンは声もかけなければ、メモを覗き込む様子すらない。

 付き合いが長いだけに知り尽くしている。何しろニラティは知恵の輪をグラインダーで捩じ切るタイプだ、力技で解決できないことに唸っているときは、声をかけてはいけない。

「星の……いや、銀の……女王が、ううんと……」

 舌打ちし、頭を掻き、こめかみのあたりの髪を指に絡める。天井を睨んだら、集中力はもう限界に近い。数分後にはペン回しを始めるだろう。

 ところが、二ラティが睨んだのは天井ではない。俄に騒がしくなったドアの向こうであった。

「ああもう、なんだようるせえな!進まないだろ!誰だ!?」

 八つ当たりがドアへ向いた。体調が万全なら、天井へ威嚇射撃くらいはしていたかもしれない。

 怪我人とは思えない大声に、ドアの向こうがヒいているのが判った。

「……そんなヒくことないだろ……怒鳴って悪かったよ、入って来な」

 ドアが開き、まず先にぬうっと姿を見せたのはメレルツァであった。

「……あれだけ大声出せるなら、心配は要らないみたいだな」

 ついと差し出されたのはスポーツドリンクであった。

「おっと気が利くね……おかげさまで」

 だが、そのボトルを受け取ったのは二ラティではなく、その横をするりと抜けてきたイェンラであった。当たり前のように受け取ると、一度ボトルを開けてから、それを二ラティに差し出す。

「マム、脚の痛みは?」

「ありがとう。そういや大して痛くないね……痛み止めが効いてるのかもね」

「なら、もう少し朦朧として欲しいね。そうすりゃ見舞が豪華になる、君好きだろうマスカットとか。儚いのもいい女のいちジャンルだと思わないか?」

「うるさいわい。今更イメチェンはしたくないね」

 保護者のようなタイミングで口を挟むヴィヤーサンを肩越しにひと睨みして、二ラティはスポーツドリンクに口をつけた。

 いつもと変わらぬやり取りを見て、≠は安心したように笑っていた。

 

「アタシはもう大丈夫。今から死ぬことはないさ……外は今、どうなってる?」

 壁に背中を預けたメレルツァが口を開いた。

「作戦成功で山場は超えたよ。ソルムッカやリーシャルも一緒に退却できた。

 陽動部隊もツムムとリシマーも無事に退却できたと連絡があったから、殿のガナートもそろそろ引き上げるはずだ」

「そっか……あとで顔見せに行くかぁ」

 ぼやきながら書き物をするニラティ眺めながらヴィヤーサンが呟いた。

「本当にタフだね、あの男」

「好きなんだろ、暴れるのが」

「んー……多分妹の方が血の気多いんじゃないかい?」

「当たりだ。だからガナートが殿なんだ、ぶっ倒れるまで戦いかねん」

 さらりと返した一言にニラティは吹き出したが、会話には戻らなかった。

「ははあ。ああ見えて兄の方がストッパーなんだね。

 はいはいはい、つながった。取って着けたみたいないい女風の喋りの正体はそれか」

「……ノーコメントだ」

「おいおいメレルツァ、それじゃ頷いてるのと同じじゃないか」

 身も蓋もない人物評を下すヴィヤーサンに、二ラティは鼻で嗤った。

「メレルツァ、そのおじさんと喋りたいなら連れて行ってくれていいんだよ。おしゃべりがいると筆が進まないんだ」

「酷いなラティ、遅筆を僕のせいにするなんて」

 笑って受け流すヴィヤーサンに、二ラティは露骨に舌打ちを連発するのだが、効果はない。

「……マムが書き物だなんて、珍しいな」

 意外そうな顔をするイェンラと目が合って、二ラティは指を鳴らした。

「丁度いいや。イェンラ、ちょっと手伝ってくれない?」

「もちろん……で、何を手伝えば?」

「……耳貸して」

 露骨な二ラティの態度に首を傾げるヴィヤーサンとメレルツァであったが……珍しいこともあるものだと、それ以上は口を挟むのをやめた。


ここまでお読みいただきありがとうございます、感謝感激でございます。

気に入っていただけたら、お気に入りやブックマークで応援してもらえると本当に励みになります。

あなたの一言が、次の物語を紡ぐ燃料になります。


さて、ニラティはなにをするつもりなのでしょう。

ぜひあなたの予想を感想で教えてください。


よろしければ拡散、趣味の合うお友達におススメしていただけると幸いです。

Xで更新情報、他作品の更新なんかも呟いておりますので、よろしければフォローいただければと思います。

https://x.com/YYKDdLD5z64pjhq


※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・出来事とは一切関係ありません。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ