年増の眠り姫は高くつく②
ニラティ救出作戦は大詰めです。
果たしてどうなるのか……ご覧ください。
「もちろんだ」
メレルツァの声にヴィヤーサンが不敵に笑った。千載一遇のこの機会、気力体力、ありったけのリソースをつぎ込むのは、回収班は誰もが心に決めていた。
「さあ、次は僕らの番だ!大体の位置は判ってるな?」
アーマーを着込んだヴィヤーサンは大型ショットガンを構えた。彼の後ろには似たような装備をした救出班が十数名、その中にはイェンラの姿もあった。
「レアメタルの下で寝こけている我らの眠り姫を叩き起こしに行くとしよう。降車したら即展開だ。あの鉄くずの山に全員できるだけ離れて低周波プロ―プを刺す。スキャン中は全員で死守。いいね?
ちなみに磁場発生装置は出力を絞ってもあと十分が限度だ。僕らが連中のディナーになる前に、手早く済ませよう」
低周波プロ―プは探索用の長い竿である。降り積もったレアメタルの層に深く挿し込んで、その名の通り低周波を発する。その反響を解析して、埋もれたニラティを探すのだ。
「行くぞッ!」
上下割れ式のハッチが開くと、スロープとなった下部を回収班が駆け降りる。先頭集団にははイェンラの姿が、最後尾には担架とその護衛につくヴィヤーサンの姿があった。
直掩のバギーや戦車が周辺の金属生命体を打ち払い、レアメタルの山へと駆け寄る。ニラティを失ったせいか、それとも像が崩れたせいか、金属生命体の連携が疎かになったようであった。
「さてと、どこで寝てんだか……」
大量に降り注いだレアメタルは周囲を覆いつくし、鈍色の雪崩でもあったかのような光景であった。
「クソデカい上半身と一緒に落ちたんだ……何処かでレアメタルの山に埋もれてるはずだ」
会話はできるだけ声量を押さえる。本当は大声で探し回りたいのだが、金属生命体を刺激してはこちらも危ない。
「まあいい、いきなり見つかるなんて都合のいいことはないよね」
手筈通り低周波プロ―プを取り出す。登山用の杖に似た折り畳み式で、伸ばすと身の丈を超える長さがあった。それを力を込めて地面に突き立て、可能な限り深くまで押し込む。
トラカンこそ始末したものの、いまだ金属生命体はうじゃうじゃいる。頭上から襲われやしないかと内心ひやひやである。
ブゥーーンという低い振動が周囲を震わせる。長々と聞いていると気分が悪くなりそうだ。
「どの辺だい?」
周辺を警戒しながらエコーの解析画面を覗き込むが……どうにも難しい。なにしろこのあたりには元々奇岩が並んでいたのだ、エコー反射だけでそれを見分けるのはひどく難しい。
「……これは違うかい?」
ヴィヤーサンが画面の一部に見える影を指した。
「……随分大きいですよ、人間はそれの三分の一くらいです」
「ラティが単品で埋まってるとは限らないだろう?この影の、ここだよ」
ヴィヤーサンが指すのは、その影の右端だけであった。
「大きさとしては……ありえなくも……近くにプロープを追加して反応を見ましょう」
大ハズレと思しきプロープを移動させ、詳細に解析する。こうして見えない部分を映し出してくれるエコーは素晴らしいが、勿論全てではない。プロープを挿し込む深さや角度、元の地形に大きく影響を受ける。
「いや、これだ。たぶんこれだよ」
見れば見るほど怪しい。解析を重ねたことでヴィヤーサンは半ば確信を得た。
「ここが頭で、こっち向いてて……ほら、尻がデカいだろ?」
なるほどそう言われて見れば、奇岩に沿って背中を丸めて胎児のような姿勢の人間に見えなくもない。
「イェンラ、君も見てくれ。どうだい?ラティは酔い潰れて寝落ちしたり、意識を失ってぐったりすると……大体こういう体勢になるクセがあったはずだ」
「……あるッ!」
最初こそ首を傾げていたイェンラであったが、ヴィヤーサンの説明を聞くと息を呑んで飛び上がった。弾かれるように駆け出すと、その影が見える場所を一心不乱に掘り始めた。
あろうことか素手である。相手は砂の山に見えるが、一粒一粒が金属の粒子である。そんなことをしたらものの数分で血まみれだ。
「誰か止めてやれ、殴ってもいい。下手に掘ったら崩れて生き埋めだ。
慎重に……ついでにメレルツァにも連絡しておこう」
『こちら回収班だ。ラティらしき反応を確認したよ。これから掘るから応援を寄越して欲しい』
僅かに歓声の上がる発令所で、メレルツァは頭を掻いた。
「応援だぁ?……ヴィヤーサン、状況悪いのか」
『悪くはないが、まだ手間がかかる。
どうやら二メートルから三メートルは埋もれてるらしいんだ。掘り出すのに時間がかかる』
生き埋めの救助というものは意外とデリケートなものである。イェンラのように上から一直線に掘っていては、穴が崩れて二次災害が発生する可能性も高い。
そのため斜め上から、スロープで相手を崖ごと切り出すように、比較的広範囲を掘らねばならない。
「人手か?」
『そっちも欲しいけど、一番は電源だ。
磁場発生装置がとんでもなく電気を食う。丸腰ではいられない。ジャンプスタートの要領で補って欲しい』
「わかった、すぐ行かせる……全員聞いてたな?
さっき十分で退却するっつったな?あれはウソだ。あの女が生きて帰るか、死体で戻るかの瀬戸際だ、もう一仕事しようか。
電源用にバギーを向かわせろ、三台だ。ケーブル忘れるなよ、ジャンプスタートの要領だ、ちょっと車好きなやつならできるだろ。準備でき次第行ってくれ」
いつもの何倍も神経を使う事態の連続に誰も彼も疲弊していたが、もう一息である。メレルツァは自らにそう言い聞かせた。
横付けしたバギーによるサポートと、効果範囲を最低限に絞る。こうして磁場の形成を、ごまかしごまかし引き伸ばす。
低周波プロープで位置を正確に探りながら、二ラティのいる周辺を残してインパクトハンマーでレアメタルを削り崩し、シャベルでかき出すことでかなり広めに掘り下げる。更には周辺に折りたたみ式のシートパイルを打ち込み、広範囲に急性硬化発泡ウレタンを吹き付けたりすることで崩落を防ぐ。傍目にはやってることは道路工事に見えたろう。
「まだなのか……」
ショットガンを構えて護っているヴィヤーサンには、遅々として進んでいないように見えた。そもそもここにいる連中のほとんどがハンター、外傷の手当ては出来ても、レアメタルの山からの救助なんて考えたこともないのだ。それでも手探りであっても手を止めないのは、がむしゃらである証拠だ。
「文句を言うならアンタも掘れよ」
イェンラの怒声は、その場の全員の代弁であった。下手に掘ってこめかみあたりにスコップでも刺そうものなら水の泡だ。
それが判っていても、もどかしい。秒針すら怠けているのだろうかと、軽口を叩く余裕もない。やがて金属を砕くインパクトや、掻き出すスコップが取り除かれ、手作業になっていくのが見えた。
「近いか!」
駆け寄って覗き込むヴィヤーサン。万が一インパクトハンマーが頭にでも当たれば頭蓋骨を砕きかねない。ギリギリまで削ったあとは、分厚い保護具を着け、手作業で掘り進めるしかないのだ。
「いたぞ!」
やがてポロリとレアメタルが崩れ落ち、胎児のように丸まった二ラティが姿を現した。
「……え?」
「ど、どうなってるんだ?」
彼女の姿を目にした全員が、一瞬手を止めた。形こそ確かに二ラティであるが、その全身が滑らかな銀の光沢に覆われていた。まるで化石のようではないか、血肉の通った人間と言うより、神の手による芸術品のようであった。
「これは……生きてるのか?」
誰かが呟いた。無理もない、全身を金属生命体に取り込まれた人間なんて、前例がない。
「マムッ!……離せ!確かめるんだよ!」
困惑する救助班を掻き分けて、イェンラが駆け寄った。引き止めるのも聞かずに二ラティの口元に耳をぐいっと近づける。
「……息してる。とんでもなくゆっくりだけど」
その言葉に、周囲がほんの一瞬だけ緊張が緩んだのが判る。頬に触れると、表面こそ金属の手触りであったが……薄皮一枚奥には確かに体温を感じる。
救出作業を始めてから、既に一時間以上が経過していた。
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はてさて、ニラティはどうなっていることやら……。
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