眠り姫の守護者 その①
精密砲撃が巨像を砕く。
腕を、頭を、そして……そこに舞い降りるのは、銀色の守護者であった。
指令室に通信が入った。
『こちら回収班、いつでも出れるよ!』
砲撃後、像の足元に放り出された二ラティを、金属生命体がうじゃうじゃいるところへ放置は出来ない。当然ながら小型車による回収班が用意されていた。
しかし、メレルツァが驚いたのは、その通信を入れてきた相手だ。
「よし……おい、なんでクレンズがそっちにいるんだ?!」
いつの間にかヴィヤーサンは発令所から姿を消し、回収班と行動を共にしていた。
『そっちで頭を使うのも悪くはないんだがね。若者のやる気に引っ張られた、ってことにしてもらえないかな。
それにほら、ここで相棒が迎えに行かなきゃ、年増の眠り姫が拗ねちゃうだろ?』
ベテランであり、頭が回り、指揮能力も高いヴィヤーサンが回収班にいることは、作戦上望ましい、妥当な人選である。
だが、メレルツァとしては出し抜かれた気分で面白くない。
「クソッ……ええい、しくじるなよ!行け!」
『まあ待っときなよ。お姫様抱っこさしてあげるよ、僕の次だけど』
「やめろ……絵面がパパ活みたいじゃないか」
「困ったねえ、トシの差ってのは」
通信の向こうから笑い声と一緒に、エンジンが唸りを上げるのが聞こえた。回収車が戦場へ飛び出したのだ。
ヴィヤーサンは軽いノリであるが、この血みどろの戦場に飛び出す回収班は、最も危険な最最最前線だ。勿論護衛は付けるが、それでも医療設備を積み込んだ回収車自体の武装は貧弱なのだ。
そこに飛び込むのは、もはや狂気じみた覚悟である。メレルツァだって、本当は指揮を放り出して乗り込みたかった。だが、血みどろになって戦う部下を置いて駆けつけることは、絶対に許されない。誰でもないメレルツァが許さないのだ。
こんな気持ちは初めてだった。メレルツァは張り裂けそうな胸を押さえ、
「……絶対にトチるなよ」
とだけ返した。
精密砲撃のために戦車大隊が足を止めたことで、金属生命体の攻撃は苛烈さを増した。金属生命体の底が見えない限り、持久戦は不利である。まだ抵抗できる戦力が残っているうちに、全てを決めなければならないのだ。
「次弾砲撃準備完了!」
「撃てッ!」
続けて砲撃が天を揺るがす。次の砲撃は左腕を撃ち抜き、更なる砲撃が頭を撃ち落とした。狙い通り、その足元には大量のレアメタルが砂山のようを積み重なっていく。
「砲撃準備完了!行けます!」
「これで決まりだ、撃て――」
ジャラン!
号令を下したその瞬間、遥かな高空から、聞き覚えのある金属音が響いた。
一瞬だけ、皆の息が詰まった。
その一瞬を縫って無数の火球が降り注ぐ。爆発は砲塔を揺るがし火柱を上げた。巨大な砲塔が吹き飛ぶことはなかったが……ほんのわずかに動いたのだろう。直後撃ち出された砲弾は、明後日の方向へ飛んで行くこととなった。
「三番砲塔で爆発!攻撃されました!」
「通信繋げ!三番砲塔どうした!?突っ込まれたか?!」
メレルツァの問いに、ノイズ混じりの返答が返ってきた。
「ちガサガサガサ――違ガリガリガリ――違う!そらだ!空からザザッ――」
「空から……?」
ここへ来て金属生命体が完全な飛行能力を手に入れたというのか?だとすれば非常に厄介な……違う。
『トラカンだ!』
割り込んだのはヴィヤーサンであった。戦車から離れた彼らからは、砲塔襲撃の瞬間が見えていたのだ。
『銀色のトラカンだ!砲塔を狙ってるぞ!』
それと同時にカメラがその姿を捉えた。シュランダの倍近い体躯、壮麗な鎧、細い布を巻き付けた奇妙な服、放射状に伸びる枝のような翼、あまりに端正な顔立ち。
それらが全て、一部の隙もなく塗り込んだような銀色の光沢を纏っていた。
戦車大隊の者は誰も知らない。それがかつて、二ラティにパランという名前をもらったトラカンであることを。
「な……トラカンまで取り込んでいたのか?!」
あまりの衝撃にメレルツァは硬直していた。それは恐らく一秒にも満たない短時間であったが……次の狙いを定めるには十分な時間であった。
『逃げろメレルツァ!主砲をやられたら、像が壊せない!』
ヴィヤーサンの声に我に返ったメレルツァ、驚きを抑え込んで必死に対抗策を探す。
『回避!機銃と直掩は頭上のトラカンを狙え!』
しかし、巨大質量ほど動くのに大きな力が必要なのは宇宙の理である。ダメ押しに大量の火球をぶち込まれた第三砲塔は歪み、炎上していた。
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混迷を期すニラティ救出作成、メレルツァは、ヴィヤーサンは。そしてパランはどうなってしまうのか?
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