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脳を蝕む鋼の芽  作者: そのえもん


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鋼の眠り姫 その④

ニラティ救出作戦。

メレルツァの乗る戦車の大口径砲が吼えます。


是非ご覧ください。

 金属生命体の群に突っ込んだ戦車大隊は、どこもかしこも激戦であった。

 基本の戦術は皆同じだ。三層構造の陣形で、金属生命体の連携を断ちながら、突出する連中を潰し、とにかく一歩も足を止めずに一夜像へ向けて進軍する。ただ問題は、そこに”変種を優先しろ”が加わったことあ。

 これが曲者だ。お使いが一品増えるのとは訳が違う。がむしゃらにやってなんとかこなしている戦いに、一つ注目がつくと、リソースは思った以上に割かれるものだ。

 腰を据えて迎え撃つなら多少の余裕も作れたろう。しかし目的が二ラティの救出である限り、速度は落とせない。もたもたしているうちにこちらの意図をに勘付かれ、せっかく陽動で引き付けたガナート達の方からまとまった数が戻ってきては作戦が崩壊する。

 結局、敵の頭数こそ減らしたものの、それでも彼らそ待ち構えていたものは死闘だった。苦しい戦いではあるが、光明は絶えていない。

「通信、回復します!」

「回復後、まずは五番と六番にも変種を狙えと伝えろ!連携の回復が第一だ」

 連携を取り戻した戦車大隊は、金属生命体の群の中を突き進む。それは、目の前の障害を突き破り、食い破り、踏み倒しながら進む巨大な獣の行進であった。一夜像を抱く丘は、目と鼻の先である。

「さあ、ここからが本番だ」

 丘の勾配はおよそ七%。それだけ聞くと大したことが無いように聞こえるが、実際これはかなりキツい。ハイキングならともかくとして、車にとっては急勾配である。

 それが四方八方から襲いかかる金属生命体と戦いながらでは……それだけで地獄が一層深まるというものだ。

「少し遠回りになるが……手こずるよりはいいかもね」

 ヴィヤーサンが指したのは丘の裾野であった。なるほどその一部だけ、妙になだらかになったところがあった。

「クレーター?……砲撃の跡だな?」

 先程ガナートが撃ち込んだ無数の砲撃は、丘の一面に立ち並ぶ奇岩を所々吹き飛ばしていた。もちろんすべてではないが、これを飛び石のようにつないでいけば、多少はマシに登れるだろう。

「アイツら……まさかコレを狙っていたのか?」

 目を見開くメレルツァの背後で、ヴィヤーサンは薄く笑った。

「だとすれば大手柄だね。後で一杯奢ってやろう」

 ヴィヤーサンの言葉に、メレルツァはふんと鼻を鳴らした。知らんのかと言わんばかりである。

「残念だな。妹はザルだが兄貴は大の下戸で甘党だ、茶会にしてやるといい。ケーキをホールで食う」

「そりゃいいことを聞いた。もちろんメレルツァも呼ぶよ?ヨックモックが好きなんだろう?」

 揶揄うような言い草であるが、メレルツァは顔色一つ変えずに頷いた。存外、喜んでいるのかもしれない。

「……山積みにしとけ、缶で食ってやる。

 進路転身!これから四番戦車とその直掩は裾野のクレーターから丘を登る!転げ落ちるなよ、気合い入れてけ!」

 メレルツァの号令に発令所のいたるところ、通信の向こうのバギーや小・中の戦車からも気合の入った返事が返ってきた。

 裾野から丘に差し掛かると、この巨大戦車であっても、ぐいんと腹の底から突き上げるように車体が波打った。

「進むぞ!像まで三百のとこまで一気に進め!」

 丘の半径は約千五百メートル、遠目にはなだらかであるが、車で登るのは、まして無限に押し寄せる金属生命体を相手にしながらの登攀は至難の業である。

 しかし、誰かがやらねばならないのだ。このままではサンジーヴァナは食い荒らされ、二ラティは文明を食い殺した悪魔と成り果てるだろう。

 誰も口に出さないのは、既に胸のうちにあるからだ。あるいは誇りを、あるいは友情を、憧れを、愛を、恩義を抱いて、レアメタルハンター達は死地へと飛び込むのであった。

 丘自体がレアメタルの塊である。そのためそのこらの丘陵よりも滑りやすく、登るのには骨が折れる。登攀力に優れた戦車であっても坂に対して垂直には登れない。戦車大隊は斜面に対して斜めに向かい、よじ登るのを強いられた。

 抉れたクレーターを繋いでジグザクによじ登る大隊の軌跡は這い寄る影か、あるいは虫の大軍のようであった。

「滑空型に上を取らせるな、一気に入り込んで来るぞ!」

 クレーター以外の斜面には天へ向けて突き出す奇岩が無数に並んでいる。本来なら風が吹くたびに詩を垂れ流すものでしかないのだが、今は金属生命体がこちらの頭上から攻撃を仕掛ける格好の足場であった。また、ほぼ全ての車輌というものは直上が死角になる。仲間同士でカバーしても、それも完全ではない。

 チャペラや滑空型が頭上から襲いかかるだけでも面倒だと言うのに、サンガストラまで同じように頭上から襲いかかってくるのは厄介であった。

 内側に入りこまれると十字砲火はもちろん、下手な射撃ができない。誤射を防ぐためにはよほど密着して撃つか、射線上に追いやって吹き飛ばすか、なんなら跳ね飛ばすくらいかしなければならない。

 モタモタしているうちに補給線や交代のリズムが崩されるのは非常に厄介なのだ。その一匹で崩れるほど脆弱ではないが、何しろ数が多い上に全方位から押し寄せるのだ、小さな綻びでも決して無視できるものではない。

 集中力の途切れたハンターは牙に切り裂かれ、あるいは跳ね飛ばされたサンガストラに巻き込まれて押し潰される。滑って横倒しになった装甲車は大隊から脱落し、片方の履帯が千切れた戦車は斜面を滑り落ちていく。こうして大隊には、ゆっくりだが確実にダメージが刻まれていくのだった。

 しかし、いかなる犠牲を払おうとも進軍を止めなかったことは、報われた。メレルツァの駆る巨大戦車は、ついに一夜像まで三百メートルのところまで至り、そこで作戦開始以来初めて停車した。戦車はそれを取り囲むように輪形陣で停車、バギーと装甲車は足を止めないまま、その周りを渦潮のように周回する。

「精密砲撃用意ッ!」

 巨大戦車の主砲がびたりと一夜像を睨む。口径三百ミリの滑腔砲による精密砲撃である。この砲にとって、足を止めてこの距離からの砲撃は、ゴミ箱にまるめたちり紙を放り込むのに等しい、百発百中の容易い砲撃であった。

「撃てッ!」

 天地をも揺るがすその砲撃。放たれた冗談のように巨大な徹甲弾は、寸分たがわずに巨像へ命中。まずはその右腕をぶち抜いた。粉々に破壊された右腕は、鈍色の砂となってその足元にどさどさと降り積もる。

「うん、見立て通りだ」

 発令所で歓声が上がる中、ヴィヤーサンは一人呟いた。

 あの像自体の強度は金属生命体と同じかやや硬い程度だ、破壊は難しくない。ぶち壊せばレアメタルとして崩れるのも同じだ。

「イケそうだな」

「そうだね、引き続き頑張って」

 まずは頭と両腕を先に撃ち落とし、足元にレアメタルを山積みにすることで、これを即席のクッションとする。その後みぞおちへの砲撃で胴体を叩き折る。こうして胸に埋もれた二ラティを解放してから回収する算段だ、

 誰の目から見ても、救出作戦と呼ぶにはあまりに乱暴なやり口である。

 しかし、絶え間なく襲い来る金属生命体の襲撃を受けながら、二ラティが崩落に巻き込まれて押し潰されたり、墜落死を避けるには、こうするしかなかった。

 もちろん僅かでも砲撃が狂えば、二ラティは骨も残さず吹き飛ぶだろう。その瞬間、この丘は丸ごと主のいない霊廟に早変わりする。

 相手が全高五十メートル近い巨像であるとは言え、これだけの精密砲撃が出来るのと、可能な限りすぐさま駆けつけられる距離のギリギリの妥協点が、この三百メートルであった。



ここまでお読みいただきありがとうございます、感謝感激でございます。

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ニラティ救出作戦はそろそろ山場です。さあ、彼女は無事に助かるでしょうか?

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