鋼の眠り姫 その③
ニラティ救出作戦は火を噴くような過熱をみせます。
是非ご覧ください。
陽動部隊の火を噴くような戦闘が始まってから、ヴィヤーサンの懐中時計でおよそ五分。わずかな時間であるが、ドローン越しに見ているこちらの胃が削られるような、濃密で凄惨な五分間であった。
陽動とは言え、手を抜いた戦いでは連中をひきつけられない。金属生命体どもが、百戦錬磨のニラティの知識で動いているとすればなおさらだ。だからこそ、そこは死闘にならざるを得なかった。
『五分経った、そろそろ行こう』
『まだだ!』
ソルムッカの発言に割り込んだのはガナートであった。
『もう少し引き付ける。四番戦車が救出に突っ込んだ後、お前らは五番と六番だけで耐えるのだろう?少しでも多くこちらに引き寄せる!』
『しかし……!』
『大丈夫!ガナート兄妹とリシマーよ?あと五倍マシで来たって支えてみせるわ!』
『だはははっ!兄貴より妹の方がおっかねえや!最高だなお前ら!』
ツムムとリシマーの軽口を肯定と捉え、ガナートたちは一夜像へ向けて突撃を仕掛けた。
小山が動くような突撃は、更に苛烈な攻撃をばら撒き、辺りに白煙と轟音を撒き散らした。
だが、だからこそ金属生命体はサンジーヴァナを取り囲む金属生命体の多くを、彼らの対処に向かわせた。
『もう少し……もう少し持ちこたえろ!まだ食いついただけ、しっかり針を飲み込ませろ!』
『点や線でぶち抜いても足りないわ!面制圧!範囲で巻き込んで!』
『過度に食い下がるな!今日は長丁場だぞ、消耗する前に交代して補給受けろ!老いぼれるまで戦える、そう思いながらぶちかませ!』
ガナート達が檄を飛ばし、戦場はみるみる地獄の様相を成していく。
「本当に……大丈夫なのか?」
青い顔でホボウリンが呟いた。彼もこの業界は長いが……金属生命体相手は一息にブチ倒すか、すぐさまケツをまくって逃げ出すかの二択に近い。これほど血みどろの戦いは見たことがなかった。
「よく見とけ……これが、命を張るってことさ」
メレルツァがぶっきらぼうに呟いた。その目は、ガナート達の死闘を余すことなくその目と脳に焼き付けようという、深い尊敬があった。
ヴィヤーサンの懐中時計が更に五分経過を刻んだ頃、ガナート達の戦車大隊は、一夜像を主砲の射程に収めるギリギリまでせまりつつあった。
『主砲発射ッ!』
天地が揺らぐ。超大口径砲が放つ圧倒的な砲撃は、一夜像が土台とするレアメタルの丘を抉り、巨大なクレーターを作った。その様子に金属生命体達はさらにいきり立った。狂気の如く加速する攻め手は嵐のようであった。
これが金属生命体にとっては歓待の印、融合を望む愛情表現であると知らないシュランダの達には、焦り、怒り狂っていると見えたに違いない。
『兄さん!』
『ああ、そろそろだな。やるか!』
ガナートの号令……ところが、答えたのは大型戦車の主砲や馬鹿げた秘密兵器ではない。
いつのまにやら大型戦車の各所から、白く細い煙が上がり始めたではないか。
ここでガナート達は大きく進路を変えた。巨大な獣が見えない壁にぶつかったかのように、大きくUターンしたのだ。
「ええっ!」
それを見て声を上げたのはイェンラであった。
「戦車が火を……しかもいきなりUターンって……無理しすぎたんだ!」
引きつるイェンラを見て、メレルツァは笑った。右頬の勲章を覗かせて。
「そう見えたか。なら、成功だな」
「え?……どういう意味だ?」
「忘れたのか?一番から三番戦車は陽動だ」
「じゃあ……あの煙は仕込み?」
メレルツァが頷いた。煙の正体は無数に仕込んだ発煙筒である。荒野での遭難も珍しくないレアメタルハンターにとっては、必需品の範疇である。
「もちろん。ガナートたちがそんなヘマするか」
馬鹿げた火力を振り回す戦車が、目前で煙を上げてUターンしたらどう思うだろうか?十中八九は機関トラブルを疑い、更なる攻勢を仕掛けるだろう。それが逃げていくなら、ここぞとばかりに追い打ちを仕掛けるはずだ。彼らが二ラティの知識を使っているのなら、尚更ここは見逃さないだろう。
ガナート達の狙いである。金属生命体の総戦力のうち大部分を引き付けたのだ。
『四番から六番戦車大隊、出撃だ!ガナート達が耐えてる間に、一気に突っ込むぞ!』
ソルムッカの号令に、残りの戦車大隊が動き出す。
戦力が北側に集中した結果、南側はほとんど金属生命体の姿がない。おかげで彼らは一気に一夜像との距離を詰めた。
流石に動き自体は勘付かれていそうなものだが、差し向けられる戦力は本当に少ないものであった。
「上手くいったな。かなり少ないぞ」
「ラティらしいな。陽動に釣られて頭に血が昇ってる。
いや、そもそもラティは陽動に気づいても撤退しないかもね。目の前の陽動を速攻で倒してから戻ろうとするタイプだ」
相手が金属生命体ならそれもいいだろう。だがガナート達率いる戦車大隊がそうあっさり倒れるはずがない。今日の彼らは、覚悟が違う。
「クレンズ……さっきからラティラティと、随分馴れ馴れしいな」
「え?……ああ、それは誤解さ。馴れ馴れしいんじゃない、実際親しいんだよ。なにしろ妻より長い付き合いだからね」
何か言い返そうとしたメレルツァであったが、一夜像の側にまとまった戦力が残っていることに気づき、戦車大隊はそれどころではなくなった。
『メレルツァ!気を逸らすな、突っ込むぞ!』
「……逸れてなんかいない」
少年のように取り繕うメレルツァに、通信の向こうでリーシャルが溜息をついた。
平時であればヴィヤーサンは「ごめんごめん、そこまでベタ惚れとは思っていなかったんだよ」くらいの深追いのイジりはしていたかもしれないが、生憎今はそれどころではない。
『ザザッ――頭数は少ないズゾゾ――手ごわい、各自作戦通りのガリガリガリ――ん携を保つんキィーン』
聞くに堪えないブロックノイズが割り込み、通信が途切れた。
「電波障害です!」
オペレーターの悲鳴に近い声に、メレルツァは苛立ちを噛み殺したが、若さはそれを漏らした。
「狼狽えるな。――クソが、この忙しい時に!」
「妨害電波かな?」
ボソリと呟いたヴィヤーサンに、メレルツァは舌打ちした。
「バカな、獣風情にそこまで出来るものか」
「そうかな?僕が現役だったころの連中はもっと野暮ったい姿だったし、連係なんか取れなかった。
彼らの進化スピードは僕たちの予想を超えている。まして向こうには二ラティの知識がある。そういや連中は金属の体だ、電波を受け止めるのも撹乱するのも、得意かもね。認識さえできれば、邪魔くらいならあっさり出来るかもしれないよ?
連中は常に、いままで出来なかったことこなしてきたんだ。通信妨害の一つや二つ、やってのけるかもしれない」
その言葉が、メレルツァの脳裏に会議の記憶を呼び起こす。今戦っている連中には、皮膜で滑空するものや、背中や頭に未知の器官を生やした連中がいるではないか。メレルツァはその直感に全てを賭けた。
「各銃座に伝令!変種だ、新顔を狙え!そいつが無線を邪魔してる、優先して叩け、補給に来たバギーや装甲車にも伝えろ!戦車や他の大隊には伝令出せ!」
その命令に真っ先に従ったのはヴィヤーサンであった。
「了解だ。イェンラ、ホボウリン、僕たちで各銃座や補給所に伝令に行こう!
メレルツァ、手の空いてる者を何人か出してくれるかい?」
「動けるやつは伝令に回れ!割り振りはクレンズに任せる、車内の見取り図用意しろ!」
メレルツァ自身に答を導き出させたのも、自らが伝令に回ったのも、ヴィヤーサンの機転であった。だが、彼が優れていたのはそこではない。
あくまで”メレルツァの指示である”という形を崩さなかったことだ。どう考えても混戦になるこの状況、避難所のまとめ役ではあっても、ハンターとしては部外者であるヴィヤーサンが勝手に動いては指揮系統が瓦解する。それだけは避けねばならなかった。
それを一瞬で汲み取り、ヴィヤーサンに伝令の権限を明言したメレルツァも中々の機転である。
「割り振りは任せるが、クレンズはここに残れ。五十過ぎで現場から離れたおっさんなんか伝令に出してもぶっ倒れるだけだ。
……お前はここで頭を使ってろ」
「ありがたいねえ。じゃあ、そうさせてもらおうか」
ヴィヤーサンは満足そうに頷いだ。
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