流星の君を求めて⑥
ヴィヤーサンの提案は、取り込まれたニラティの救出作戦であった。
勝算はあるのか?
是非ご覧ください。
「……あの小娘か?」
信じられないという顔のタウラカに、ヴィヤーサンが大きく頷いた。
「はい。もう少し分かりやすい画像があります」
切り替わったスライドは、一夜像の胸元のアップである。
「これは……本人か?」
「はい、間違いありません」
そう、そこには磔のまま壁に塗り込まれるように半ば埋まった二ラティの姿があった。
だが、髪も肌も服も、全てが金属生命体にコーティングされたような艷やかな銀色に包まれたその姿は、まるで時を止められた眠り姫のようであった……姫にしては、少々嗜好がパンクであるが。
「生きているのか?」
「わかりません。医者も超望遠レンズ越しでは診断できませんでした。
ですが、食われずに姿を留めているのは、生きている証だと考えます」
怪訝そうなタウラカが口を開く前にヴィヤーサンは続きをまくし立てる。
「そもそも妙でした。
確かに金属生命体は賢い。ですが今回のように統制の取れた巻狩りを仕掛てくるほどではありません……もしかしたら、彼らは二ラティの知識を使っているのかもしれません」
「予想だろう?」
「そうです。しかし、他にそれらしいものは見つかっていません。
金属生命体の連携をなくせば、確固撃破は不可能ではありません」
「ならば救出など不要だ、今すぐ小娘ごと吹きとばせ。救出のために戦力を危険に晒せるか。まずは今生きている者だけでも確実に生き延びる方法を考えるべきではないか?」
「それも道理です。しかし、その場合この先はどうなるでしょうか?
トラブルのたびに”今助かる者だけでも”“確実に助かる者だけでも”と簡単に切り捨てるのですか?
それをくりかえせば、いずれ”この場の者だけでも助ける”と切り詰め、いずれ”自分だけでも”となるのは目に見えています。
恐らくその時は会長も私も、切り捨てられる側でしょう。
無論、全てがそうではありません。いつかは切り捨てなければならないこともあるでしょう、ですが、その前に死力を尽くさねばならないのです」
「バカを言え、そのために命を賭けるか」
「そうです。この救出作戦には、彼女を助けるために犬死にできる者しか参加させません。私がその一人目だ
多くのレアメタルハンターが、彼女が生きている可能性に賭けているのです、自分の命を」
「軽率だ」
「百も承知です。軽率な人間でなければ、レアメタルハンターに関われば後悔します」
「小娘を助けてどうなる?取り込まれて、人型の金属生命体として人を襲ったら?」
「その時は、私が食われながら自爆しましょう。彼女とは何度も死線を潜りました、一緒に彼岸へ渡るのも悪くない」
「青いことを言う。小僧め、その軽薄さが何万人を危険に晒すのか判らんバカでもあるまい」
「そうです、軽率な小僧なのです。ですがこの小僧は悪賢く、青い。だから、彼女が心まで金属生命体に囚われているとは思っておりません」
「……理由でもあるような口ぶりだな」
タウラカの言葉に、ヴィヤーサンは少しだけ目を細めた。その脳裏には、焼け付くような荒野を共に駆け抜ける二ラティの傲岸不遜な横顔が焼き付いていた。三十年見てきたその姿は、目を閉じなくともありありと浮かび、その日の風すら思い出せた。
「そうです。
彼女なら、相手に詩を聞かせたり、手下を送り込むような回りくどいことはしません。
彼女は気が短く、乱暴で現場主義だ。言いたいことがあれば自分の口で言う、他人の口なんか借りません。用があるなら自分が突っ込み、直接言い聞かせます。手下を連れてきても、先頭はいつだって自分だ」
ヴィヤーサンはニラティを三十年見ている。だからこそ断言できた。
「信用しているというのか?あの様子で?正気か?」
「既にこの事態が正気ではありません。正気では突破できないと、私は考えています」
それでもヴィヤーサンの口調は落ち着いていた。狂気のただなかにあっても、自分が取るべき手段を見失っていないと悪心しているのだ。
「彼女は根が単純です。表面上は変わっても、自分のしたくないことはしません。死を選ぶような女です。彼女を知る人間なら、全員それが判る。
つまり彼女は、金属生命体の連携のコアになっていても、そこに意識は介在していないと言えます。
引っこ抜いてやれば、連携を崩せる筈です。だから救出作戦に全てを賭けられるのです」
そしてヴィヤーサンは微笑んだ。その場の多くが、思い出していた。ホボウリンは腕を組んで笑い、イェンラは手を組んで涙ぐんでいた。
脳裏に蘇るのは、荒野で茶を啜る二ラティ。あるいは金属生命体の群れを目の前にして皮算用に勤しむ二ラティ。あるいは予言を売りさばき、他人の面倒事を心配して首を突っ込む二ラティ。敵にも味方にも一言ずつ皮肉を飛ばしては憎まれ、愛された、あの女の姿だ。
豪快で乱暴で、だが誰よりも先に飛び込んで、派手にぶちかます、そんな背中と笑い声だ。
それが、二ラティだった。
それを知っている人間にとって――彼女があんな場所で大人しく終わるだなんて、考えられないのだ。
「……そうか」
タウラカが腰を下ろした。呆れたのか、折れたのか、狂気にアテられたのか、もはや本人にも判らなかっただろう。
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